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2025年12月25日

連載「JAMA 大学キャンパス出張授業2025」マツダ ~マツダが描く未来とソフトウエアで実現するモノづくりの革新~

 マツダの今田道宏執行役員は5日、早稲田大学西早稲田キャンパス(東京都新宿区)で「マツダが描く未来とソフトウエアで実現するモノづくりの革新」をテーマに講演した。マツダの「ひと中心」の技術開発や、ソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)で広がる可能性などについて話した。学生からはマツダが強みとするモデルベース開発(MBD)などについて質問があった。

 今田執行役員は統合制御システム開発担当として、SDVに必須の「電子/電気プラットフォーム」の開発を主導する。パワートレインやシャシー、ボディー周り、情報通信系まで、あらゆる電子制御がつながり、ソフトで動くための基盤だ。

 マツダはSDV時代も「人間中心」を意識した開発を進める。〝自分の能力を生かして運転することで元気になる〟という思想の下、運転支援に力を入れる。このため、車両だけでなく人間の歩行動作などをシミュレーション上に再現し「人間がもともとある能力を発揮できるような車づくり」(今田執行役員)を目指していることを解説した。

 どのようにSDVを活用するかのイメージも紹介した。運転支援と同様に、ユーザーの心身の活性化につなげる構想を抱いているという。人工知能(AI)も、人とクルマとの距離を縮める手段として用いる。今田執行役員は「これができるクルマとプラットフォームを用意するのがメーカーの仕事だ」と話した。

 技術開発では、中規模メーカーならでは考え方「9共1独+技」を紹介した。車載ソフトが大規模化する中「9割は共創しつつ、1割の独自領域で差別化を図る」「一から自社でつくれるだけの技量を磨く」という意味だ。同社はまた、MBDを80年代中盤から導入し始め、今では車載通信技術まで幅広く活用していることを紹介した。

 学生との主なやりとりは次の通り。

 ―MBDと実機試験の割合はどのくらいが最適か

 「衝突安全性能はどのメーカーも数十年研究を続け、90%以上、現実に即したモデルができている。その他の領域も実機(での検証)が1割くらいにしたい。最終的に商品にする上で実機試験は欠かせないが、過程をMBD化し、9対1の世界になれば良い」

 ―代替燃料の研究状況は

 「微細藻類由来の燃料を研究している。ほとんど軽油に近い性状のため、既存の流通網を使えるのが大きい。水素は私自身、過去に『水素ロードスター』で研究したが、扱いや貯蔵の難しさが課題だ」

 ―東京都内のソフト開発拠点と、広島の車体開発拠点との距離をどう克服するか

 「東京は広島本社のサテライトオフィスのようなイメージで連携している。ただ実際の開発では行き来している。関東地方には特定のスキルを持ったエンジニアが多くいるが、流動性は高いと思う。ある時期にマツダで頑張っていただき、成果を自慢しながら、次の場所に移るというのでも良いのではないか」

 ―中国の新興メーカーはなぜ安価なクルマをつくれるのか

 「個人の見立てだが、電池が安く、SDV領域はプレーヤーが限られ、台数効果が大きいのだろう。現地のエンジニアと話すととても元気がよく、やりがいや誇りを持って取り組むことが成果につながっていると感じる。(日本の)若い方々にも生き生きと頑張ってほしい」

 ―SDVによってハードの開発サイクルが延びる。競争力向上のためには短期化すべきでは

 「エンジニア視点では、良いものをつくって早くお客さんにお渡ししたい。ただ、法規認証も厳しくなって手間が増えているのも事実で、せめぎ合いがある。SDV時代とはいえ、人生の中で2番目に高い耐久財消費材であり『後で何とかする』は通用しない。それでも短くはしたい」


マツダの開発思想やビジョンを語る今田執行役員


屋外には「ロードスター」「CX―80」も展示

対象者 自動車業界

日刊自動車新聞12月25日掲載