
歩道を歩く牛。水牛を含めて3億頭いるという(24年10月にインド・チェンナイで撮影)
インドでは人口14億人のうち10億人は農村部に住む。そこの所得を増やすことが車の販売を増やすことにつながる。
酪農では糞の処理など牛の世話は主に女性の仕事だ。スズキは牛糞1キログラムを約2円で買い取る。10頭飼っていると年約11万円の収入になるという。農村部の世帯平均年収は約26万円(21年度調査を基に計算)だ。女性の自立や地位向上にも貢献できる。
全国酪農開発機構とグジャラート州の乳業組合・バナスデイリーとともに設立したプラントが12月6日に稼働した。同州は、インドで酪農が最も盛んな地域だ。
同プラント周辺の酪農家に協力してもらい、1日当たり100トンの牛糞を回収する。約7千頭分の牛糞だ。ここから約1.5トンのCBGを精製する。約850台の1日当たりに必要な燃料だ。鈴木俊宏社長は「牛糞なんて、と言わずに、こんな効果もあることを知ってもらいたい」と話す。
カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)にも貢献する。牛糞に含まれるメタンは二酸化炭素(CO2)に比べ28倍の温室効果を持つ。メタンを燃料に転換し、車から排出されたCO2で植物が光合成をして牛の餌になる、というサイクルを作る。
バナスデイリーは独自のバイオガスプラントを持つ。スズキとのプラントの運営はバナスデイリーが行う。
プラント内にはCBGの充填スタンドも設置。1日当たり、CNG車200台分の燃料を供給できるという。CBGの価格はCNGと同等だ。
プラントを設置できるのも、インドでCNG車が普及しているからだ。シェア4割のスズキの新車販売台数(24年度)の約35%がCNG車だ。
CNG車はガソリン車に比べ価格は高い。「ワゴンR」では2割ほど割高だ。ただ、燃料を含めるとCNG車が安い。CNGはガソリンに比べ4割ほど安いからだ。
CBGが普及すれば、エネルギー自給率が高まる。インドは原油の約9割が輸入だ。インド政府もバイオ燃料の普及に力を入れている。
バイオガスプラントはインドでも増えているが、農村部の活性化を目指すのはスズキ独自のやり方だ。グジャラート州で5つのプラントを設置する計画を進めている。スズキはこの事業やモビリティ関連の新規事業を含めて2030年度に売上高500億円、40年度には既存事業と並ぶ収益にする考えだ。
10億人の所得を増やすためにはインド全土に取り組みを進める必要がある。グジャラート州での成功がCBG事業の発展のカギになる。













