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2025年12月4日

国内メーカー、長期化するモデルサイクル 商品力高ければ改良で販売継続 開発リソースはEVへ

 新車のモデルサイクルが延びている。従来、全面改良のタイミングは4~6年が一般的だったが、トヨタ自動車の「アクア」は4年目、スズキの「クロスビー」は8年目で大幅改良を実施し、〝延命〟を図った。トヨタはモデルサイクル延長に伴い、マージンを見直す方針を系列ディーラーに示した。国内の多くの自動車メーカーは需要に合わせて複数のパワートレインを展開する「マルチパスウェイ戦略」を採る。すでに商品力が高いガソリン車やハイブリッド車(HV)のモデルサイクルを延ばし、電気自動車(EV)の開発にリソースを振り分ける狙いがある。

 2017年に市場投入したクロスビーは、軽自動車のヒット車「ハスラー」に外装を似せたコンパクトSUVだ。今回の大幅改良では、ヘッドライトやフロントグリルなどのデザインを刷新してハスラーとは異なる印象となった。室内では液晶メーターを採用するなど機能性も高め、さらにはエンジンを載せ替えて燃費を25%改善した。

 ここまで大きく手を加えながらも全面改良としなかったことについて、飯田茂チーフエンジニアは「マルチパスウェイの中での優先順位からビッグマイナーチェンジ」だと説明する。スズキは初のEV「eビターラ」をSUVカテゴリーに投入するが、複数のパワートレインを展開する上でEV開発のリソースを捻出するためにガソリン車のクロスビーは大幅改良という選択肢を採った。

 かつて、日本車のモデルサイクルは、4年周期という車種が多かった。国内で最古の歴史を持つトヨタ「クラウン」もかつては4年周期で全面改良しており、系列ディーラーからは「販売のヤマ場がオリンピックと同じ」と言われ、モデルチェンジのタイミングで代替えを勧める営業手法が一般的だった。

 現在はモデルサイクルが6年程度まで延びている。トヨタはアクアを4年目に大幅改良したが、今回が商品テコ入れの「折り返し地点」とみると、モデルサイクルは6年を超える可能性がある。

 販売現場では全面改良のタイミングで一気に台数が伸びる一方で、平準化が課題だった。トヨタは新車販売直後のマージンを引き下げ、年数に応じて引き上げていく仕組みを22年の「クラウンクロスオーバー」から導入した。今回、全面改良の周期を延ばすことでマージンについても販売状況に応じて柔軟に設定する方針だ。

 今冬に大幅改良を実施する三菱自動車の主力車種「デリカD:5」のモデルサイクルは来年で19年目に突入する。商品力が高いモデルは全面改良せず、改良を繰り返して販売を継続することで収益を確保する。

 一方、中国新興メーカーはEVの短期開発が主流となっている。EVはトレンドの変化が速く、高度運転支援機能など最新技術を採用しないと競合他社に負けてしまうからだ。トヨタのEV「bZ4X」は投入から3年目で航続距離を大幅に伸ばすなどフルモデルチェンジ並みの大幅改良を実施した。経営再建中の日産自動車は全面改良に必要な開発期間を30カ月に短縮する方針で、タイムリーに新型車を投入し事業回復を目指す。

 モデルサイクルが長期化する車両はすでに商品力が高いガソリン車やHVが中心になるとみられる。車両構造の刷新が求められるEVやソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)の普及が本格化する2030年以降を見据え、競争力がある現行車のモデルサイクルを延長し過渡期を乗り切る狙いもありそうだ。

クロスビーはマルチパスウェイの優先順位から大幅改良にとどめた

対象者 自動車業界

日刊自動車新聞12月4日掲載