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2025年12月1日

経団連が「2030年に向けた物流のあり方」提言 物流大綱の7割未達 成長産業化に向けた政策を期待

 日本経済団体連合会(経団連、筒井義信会長)は、「2030年に向けた物流のあり方」と題した提言を公表した。現行の総合物流施策大綱(計画期間:21~25年度)で示された施策の約7割が未達である現状を踏まえたもので、「物流の持続可能性確保」「成長戦略としての物流政策」を目指すべき施策の方向性に定めた。その上で、「商慣行の見直しに向けた経済界・消費者の意識改革」「新モーダルシフトの推進」「物流現場のスマート化」などを、今後5年間に取り組むべき施策に掲げた。
 現行の総合物流施策大綱は、物流DX(デジタルトランスフォーメーション)や標準化によるサプライチェーン全体の最適化、労働力不足に対応した構造改革と労働環境の改善、持続可能な物流ネットワークの構築―を柱としてきた。しかし、25年6月時点では約7割の項目が未達とされ、さらなる取り組みが求められている。
 提言では、①2024年問題を契機とした輸送能力不足②インフラ老朽化と災害の激甚化③国際競争力の低下―を日本の物流を取り巻く喫緊の課題に挙げ、「物流の持続可能性確保」「成長戦略としての物流政策」が目指すべき方向性だと位置付けている。その上で、今後5年間で取り組むべき具体的施策を「商慣行の見直しに向けた経済界・消費者の意識改革」「新モーダルシフトの推進」「物流現場のスマート化」「国際競争力強化・成長戦略に資する施策」「グリーントランスフォーメーション(GX)の推進」「分野横断的な政策」の6つに整理。物流の持続可能性を確保しつつ、成長産業化に向けた物流政策を政府に強く期待するとしている。

①商慣行の見直しに向けた経済界・消費者の意識改革
 物流を持続可能かつ成長産業とするには、商慣行の見直しに向けて物流を取り巻くさまざまなステークホルダーの意識改革が不可欠という。その上で、意識改革が求められる事項に①指定時刻の分散化と柔軟化②納品リードタイムの延長③在庫拠点の分散化④倉庫作業の前倒し・平準化⑤ドライバーの付帯業務の削減⑥大規模商業施設などへの配送⑦梱包の簡素化⑧レンタルパレットの適切な契約⑨ケミカルタンカーやタンクローリーの前荷規制―を挙げた。その中で指定時刻の分散化と柔軟化に関しては、トラック事業者での指定時刻の分散化と荷受側の幅を持たせた受け入れ時刻の設定が必要としている。また、納品リードタイムの延長に関しては、その実現によって効率的な配車とそれに伴う積載効率向上につながるだけでなく、トラック輸送よりもリードタイムの長い鉄道や船へのモーダルシフトにも効果が期待できるとしている。

②新モーダルシフトの推進
 モーダルシフトの中核を担う鉄道貨物輸送や内航海運では、荷主の行動変容や災害の激甚化に備えた機能強化、サービス拡大に向けた支援などへの取り組みが必要だと指摘する。一方、重量ベースで全輸送モードの約9割を占め、各輸送モードの結節点をつなぐトラック輸送は、ダブル連結トラックや自動運転トラックの実用化に向けた車体開発、法整備で政府の後押しが必要とした上で、それら輸送が円滑に進むための中継連携拠点の整備を求めている。また、ダブル連結トラックや自動運転は、トラックドライバーの担い手不足解決に向けた一助になるとみている。

③物流現場のスマート化
 物流現場のスマート化では、「デジタル技術による効率化・可視化」「積載効率・荷役作業の最適化」を要点に挙げる。
 デジタル技術による効率化・可視化のうち、トラック輸送のDXについては、トラックの荷待ちなどの時間削減や積載効率向上に向けて、①トラック予約受付システム②荷待ち・荷役時間の計測システム③共同輸配送に関わるマッチングシステム―の活用が欠かせないとする。これらシステムの普及は、トラックドライバーの荷待ち・荷役に伴う負担軽減、労働環境改善、輸送効率向上につながるだけではなく、中小事業者を含む幅広い企業がデジタル化の恩恵を享受できるとしている。
 また、積載効率・荷役作業の最適化に向けては、パレット化のほか、フォークリフト、自動搬送機器、リフト付き車両など荷役機器の導入や自動仕分け機といった倉庫自動化が有用として、補助金などによる財政支援の必要性を求めている。

④国際競争力強化・成長戦略に資する施策
 国際競争力強化・成長戦略に資する施策では、国際物流ネットワークの強化と国際標準化の推進に取り組むべきだとする。国際物流ネットワークの強化に向けては国際航空貨物、国際海上輸送において、成田空港の機能強化、成田空港と羽田空港の一体運営、船舶の大型化に対応した港の選択的整備、重要海域における航行安全確保への取り組みが必要としている。

⑤GXの推進
 物流分野におけるGX推進には、輸送機器のエネルギー効率向上や排出削減に資するモーダルシフト、各輸送モード、物流施設におけるGXへの取り組みが不可欠とする。各輸送モードにおけるGX推進のうちトラック輸送については、水素ステーションやバイオ燃料供給拠点の稼働率を見込みやすい幹線輸送の拠点、複数のトラック事業者や荷主が共同で利用するトラックターミナルなどの整備を求めている。

⑥分野横断的な政策
 分野横断的な政策では、多様な人材の活躍、物流統括責任者のグループ企業内での兼任の容認、長期的な視点での物流投資の促進とKPI(重要業績評価指標)の進捗管理、災害時の物資輸送の円滑化、助成金の応募期間の延長―の必要性を挙げる。その中で、多様な人材の活躍に向けては、足元の物流業界の深刻な人手不足を指摘した上で、持続可能な体制を構築するために女性、高齢者、外国人など多様な人材参入を促している。また、労働者の身体的負担を減らす現場のスマート化や荷役機器の導入などに加え、働きやすい職場環境整備を求め、これら施策により、多様な人材の参入と物流業界の労働力基盤の安定化が図られるとしている。
 提言は取り上げた施策が実現すれば、物流の持続可能性と成長産業化が確保され、国際競争力強化、経済安全保障の確立、成長と分配の好循環の実現に大きく寄与することが期待されると締めている。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞12月1日掲載