2025年11月27日
ナスカーで知るアメリカ車の魅力 モータースポーツの現場で進む文化交流

ナスカーのデモ走行にはジョージ・グラス駐日大使(中央左)も訪れた
米国の自動車に対する関税政策が日本の自動車メーカーの経営の重しとなっている中、モータースポーツの現場で日米友好関係の促進を狙ったイベントが開催された。15、16日に富士スピードウェイ(静岡県小山町)で行われたスーパー耐久シリーズ(S耐)最終戦で、日本自動車会議所(豊田章男会長)が米国で人気のストックカーレース「ナスカー」のデモ走行を実施した。米国生産車の日本への輸入を検討しているトヨタ自動車は米国で現地生産しているピックアップトラックなどを展示した。日本のモータースポーツファンに米国のレース文化や米国生産モデルを紹介して対米貿易赤字の削減につなげようとの狙いが見え隠れする。
日本自動車会議所がナスカーを招聘した最大の目的は日米自動車文化の交流だ。トヨタの豊田会長は日本自動車会議所の会長に就任して以来「クルマをニッポンの文化に!」をスローガンに掲げ、日本が世界に自慢できるものとして、文化・伝統、観光・自然などとともに、自動車産業と認識されることを目指しており、そのための活動に取り組んでいる。
今回、アメリカンモータースポーツの代表格で、米国自動車文化の象徴でもあるナスカーの迫力のある走りを、日本のモータースポーツファンに実際に見てもらうことで、日本でもモータースポーツを含む自動車を文化として根付かせる一助にするとともに、日米でモータースポーツの文化交流を図ることを目的にイベントを実施した。日本自動車会議所の島﨑豊専務理事も「日本の自動車産業がより身近に、永続的に発展するには文化にする必要がある」と指摘する。
日本のサーキットで、ナスカーを走らせたドライバーはモータースポーツ文化の交流を機に、日本の意識が変化することに期待する。レーシングドライバーの小林可夢偉氏は「いいクルマを作るために、クルマを大切にしてきた日本と、クルマをエンターテインメントとしてレースするアメリカは全く異なる。そういうレース文化を未来に持っていけることに期待している」と話す。
日本人唯一の現役のナスカードライバーである古賀琢麻選手も「ナスカーはファッション的なポップカルチャーでもある。日米両国は、ドジャースのキャップを被る人が多いが、ナスカーのチームキャップが街で溢れるように日米の文化交流をナスカーが担えれば」と、日米のモータースポーツの交流が拡大して、ナスカーが日本でも認知されることに期待を示す。
S耐でのナスカーのデモ走行はトランプ米大統領の来日前から準備を進めており、米国の関税問題と直接的な関係はない。
ただ、この時期、日本の自動車メーカーが相次いで発表した2025年4~9月期業績で、日本から米国向け輸出される自動車への関税が業績を押し下げる大きな要因となっていることが明確になった。こうした中でイベントを開いたことについて豊田会長は「自国の自動車産業を守りたいのはどの国の長も同じ。関税は一つの手段だが、関税を課せられても皆がウィナー(勝者)になる方法を模索している。一番はユーザーだが、日米の政治家やステークホルダーを含めて全員がウィナーになれるように動き始めたと理解してほしい」と語った。
また、日本自動車会議所主催の日米自動車文化交流イベントで、トヨタが米国で生産する国内未導入車を展示した。セダンタイプの「カムリ」、3列シートの大型SUV「ハイランダー」、ピックアップトラック「タンドラ」の3種類10台を超える車両を展示した。ナンバーは取得していないものの、日本の認証法規に適合するよう部品を交換するなど手を加えており「登録可能な状態にある」(トヨタ関係者)という。
日米貿易交渉で、日本から米国に輸出する自動車の関税を15%にすることで合意したが、米国生産車の日本での販売を促進するため、米国の認証基準を満たした車両は日本での追加試験なしで輸入・販売する制度に見直すことになっている。
トヨタは自動車の貿易赤字の削減に向けて米国生産車の日本での販売を検討している。カムリが最有力候補だが、具体的な車種や時期は明らかにしていない。国土交通省が年内に内容を決める予定の米国製輸入車の認証手続きの規制緩和策を待ってから手続きに入るとみられている。
今回、トヨタの米国生産車を日本のモータースポーツファンに披露したのは、米国生産車のボディーサイズやデザインをいち早く伝えて、日本での販売を促進したい考えだ。
日米自動車文化の交流はS耐の現場でも進む。S耐を運営するスーパー耐久未来機構(STMO、豊田章男理事長)は、来シーズンから米国車を対象にした新しいクラス「ST―USA」の創設を決めた。24年シーズンの最終戦ではフォード・モーターの「マスタング」、ゼネラル・モーターズ(GM)のシボレーブランド「コルベット」のレースカーが試行的に参加した。国内最高峰の耐久レースへの米国車の参戦を促し、国内で米国車の認知度やイメージアップに協力する。
今回のS耐最終戦ではアメリカ文化を体験できるイベントも実施した。日米の肉グルメが堪能できる「フジニック フェスティバル」をはじめ、会場では巨大なハンバーガーやステーキなど、アメリカンフードが提供された。来場者はレース観戦のもう一つの楽しみである食を通じて日米両国の文化交流を楽しんだ。
(水町 友洋)

ST-USAクラスに参加したコルベットGT3

イベント会場に並べられたトヨタの米国生産車

サーキットでは日米の食文化を楽しむイベントも
| 対象者 | 自動車業界 |
|---|
日刊自動車新聞11月27日掲載











