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2025年9月10日

サプライヤー、好業績でも希望退職 背景にポートフォリオ見直し 若返りで業界変化に対応

 三菱電機が募集人員を設定しない早期希望退職者の募集を発表した。同社は2025年3月期連結決算で売上高、営業利益ともに過去最高と、業績は堅調ながら、不採算事業や成長が見込めない事業を見直しており、その一環となる。自動車部品関連企業では、足元の業績に関わらず人員体制の見直しを進める動きが広がっている。背景には、業界の変化に対応し、人員構成を若返らせる狙いがありそうだ。一方で、こうした人材を即戦力として採用しようとする動きもある。

 三菱電機は「ネクストステージ支援制度特別措置」として、26年3月15日時点で満53歳以上の勤続3年以上の正社員と定年後再雇用者を対象に12月から来年1月まで募集する。退職金を上乗せし、希望する正社員には再就職支援サービスを提供する内容だ。同社の業績は順調に推移しているが、不採算や低収益事業など売上高で8千億円分の事業について撤退か継続か検討しており、25年度中に決定する予定。自動車機器事業などが見直し対象のもようだ。

 今年に入り同様の例が相次いでいる。年初にはルネサスエレクトロニクスの人員削減が明らかになり、パナソニックホールディングスも業績は黒字ながら1万人規模の削減を発表。事業環境の変化への耐性を強める姿勢を打ち出している。

 東京商工リサーチ(TSR)によると、今年1月~8月末に発表された上場企業の「早期・希望退職」募集の対象人数は1万人超。募集の大型化が目立ち、3年ぶりに1万人を超えた24年の年間募集人数(1万9人)をすでに上回っている。

 募集が判明した上場企業は31社(前年同期41社)で、社数こそ少ないが、人数は前年同期の約1.4倍に増加した。業種別では電気機器が最多の13社(前年同期9社)など、製造業を中心に構造改革の動きを強めている。

 直近では、日産自動車がグローバルで2万人の人員削減を公表しているが、国内での人数は明らかにしていない。ジャパンディスプレイも、募集に対して社員の約半数が応募したと発表した。

 ただ、こうした苦境にある会社だけではなく、業績が堅調な企業も目立つ。TSRのまとめでも、黒字企業の例が6割を占めた。三菱電機やパナソニックのような大型案件以外にも、日清紡ホールディングスが通信事業などの構造改革に伴う400人の削減を発表。NIPPON EXPRESS(ニッポン・エクスプレス)ホールディングスも300人規模で募集するなど、業績が堅調でも中長期的な競争力強化に加え、さらなる業績改善に向け構造改革の一環として人員減を図る動きも目立つ。

 背景には、事業環境が変化する中、事業の収益構造やポートフォリオを見直すことで、非中核部門の縮小やアウトソーシング、自動化による業務効率化を進める動きが広がっている事情がある。また、三菱電機は「人員構成上の課題に対処し、次世代への継承推進が必要」と、若手人材に対して、より活躍の機会を与える狙いを示唆する。このため早期退職は募集するが、来春の新卒採用などは絞らない予定だ。

 自動車や電機業界に詳しい専門家は、「三菱電機やパナソニックのような大手企業による事例は、こうしたトレンドを象徴するもの。黒字=安定とはいえず、先を見据えた構造改革としてのリストラは増える可能性が高い」と分析する。

 一方、こうした動きを人材獲得の機会とみる動きもある。ある大手サプライヤーは最近、早期退職優遇などで転職を検討する人材に注目する担当チームを設けた。従来から取引のある企業の場合は、先方の人事部門に連絡し、転身先として自社とのマッチングを支援してもらえないか先方に相談する。取引の薄い企業でも関係構築を探るなど、担当者は日々の開示情報などに着目し情報を収集する。

 積極的に獲得を進める理由として「ベテラン層も人手不足は深刻」(担当者)と明かす。今後のソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)化や電動化などで即戦力になりそうな人材が、電機や半導体、ディスプレーなど幅広い業界から放出される今年は、こうした層を採用する好機と考える。

 「ただ、早期退職に応じる方には、従来の仕事や会社への愛着など複雑な思いを持つ方が多い。それに寄りそう形で、採用を進めている」(同)といい、ベテラン獲得ならではの難しさもありそうだ。

リストラが相次ぐ一方で、即戦力として獲得を図る動きも活発化している

対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞 9月10日掲載