2025年9月8日
高精度地図の生き残る道は 自動運転には不可欠のはずが…
E2Eやリアルタイム対応で新たな価値へ
自動運転には欠かせないと言われてきた高精度(HD)地図だが、自動運転の技術革新を受けて、取り巻く環境が大きく変化している。高精度カメラやセンサー、人工知能(AI)の活用により、HDマップを使用しない自動運転システムが台頭し始めているためだ。マップ自体も地図の精度だけではなく、刻々と変化する道路環境をリアルタイムで組み合わせることなども求められている。HDマップの整備には莫大(ばくだい)なコストが発生する。その中で地図各社は、事業環境の変化に対応すべく、デジタル地図情報の活路を模索している。
国内外の地図会社がしのぎを削る
(写真はトムトムのマップモデル)
従来、「レベル4」(特定条件下における完全自動運転)などの自動運転システムでは精度の高い三次元(3D)地図が不可欠とされてきた。安全性を高めるためには車線や横断歩道、信号機の位置といった道路情報の先読みが欠かせず、カメラやセンサーではその探知範囲に限界があるからだ。
ただ、近年は車両周辺の情報の認知や分析、運転制御を単一のAIが全面的に行う技術「エンド・ツー・エンド(E2E)」が登場。E2Eならカメラやセンサーのみでもスムーズな自動運転が可能とされる。実際に米テスラや中国系の自動車メーカーなどは、HDマップを必要としないシステムの開発を急ピッチで進めており、すでに中国などでは実用化されている。
E2Eの開発が進む背景には、地図が不要で走行環境に対する柔軟性が高いことに加えて、HDマップのコストも一因だ。HDマップの作成には、常に地図を最新の状態に維持するために頻繁に更新する必要が生じる。そのためには測量用の機器類を搭載した車両を実際に走らせるなど、莫大なコストがかかる。
一方でE2Eに関しては、万が一の事態が発生した際のリスクに対する不安が根強い。実際の運転制御に至るまでのAIの判断過程が見えないためだ。また、膨大なデータの学習も必要になる。そのため地図各社は、E2Eが普及しても、システムの安全性を確保するためにデジタル地図による補完が必要だと見ている。ダイナミックマッププラットフォーム(DMP)の雨谷広道執行役員は「一部だけでも(デジタル地図を)使うハイブリッド型もあるかもしれない」と述べる。
こうした中で、地図会社では自動運転の環境変化を念頭にデジタル地図の価値をアピールする。例えばオランダの地図サービス会社のトムトムは、E2E向けのデジタル地図を開発する方針を明らかにした。HDマップよりも情報量は少なくなるが、道路の境界や標識など、自動運転に必要な情報を盛り込む。これによりコストを抑えつつ実用性を確保する考えだ。
また、E2Eが普及した場合でも、違う形で地図データに価値があるとの考え方もある。DMPでは、自動運転の安全性確保に向けたシミュレーションや車載AIの機械学習のために自社のデータが有効と見ており、実際に引き合いがあるという。
地図データの有用性を高めるためには、リアルタイムの情報を提供できるかも重要となる。自動運転や先進運転支援システム(ADAS)では、偶発的な交通規制などにも対応する必要があるためだ。
こうした中で米マップボックスの日本法人は、地図上に気象情報を表示できる機能を開発し、試験的な提供を始めている。雨雲の動きや降雪リスクといった情報を走行中に確認できることで、安全運転や最適なルート選択が可能になる効果を見込む。
ゼンリンも、リアルタイムな地図情報の提供を目指している。同社は2020年からタクシー配車アプリを手掛けるGO(中島宏社長、東京都港区)と共同で「道路情報の自動差分抽出プロジェクト」を進めている。今年8月には、GOが運転支援事業を分社化して誕生した新会社のGOドライブ(川上裕幸社長、同)に出資。トラックやタクシーのドライブレコーダーから入手した情報を、ゼンリンの地図と照合して差分をいち早く把握する狙いだ。
同社は「都市部など変化が多い地点では、これらのシステムを利用し、それ以外ではゼンリンの計測車を並行して走らせる」(竹川道郎社長)方針で、これにより効率的に地図の鮮度を保つ考えだ。
とはいえ、自動運転のシステムについては「まだ答えは出ていない」(DMPの雨谷執行役員)とする見方は多い。レベル4ではなく「レベル2(高度な運転支援)」を発展させていく動きなどもあり、自動運転システムの進化を見通すのは難しい。各社が地図データの活用を広げるべくしのぎを削る中、デジタル地図に求められるものや、その在り方が定まるまでは、まだ時間がかかりそうだ。
対象者 | 自動車業界 |
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日刊自動車新聞9月8日掲載