2025年9月4日
国交省、船積み中古車の放射線量検査 「実施要求は違法」港湾業界団体に通知
福島第一原発事故の後に船積みする中古車の放射線量検査が今も続く問題で「放射線量検査の実施要求は港湾運送事業法に抵触する恐れがある」という通知を国土交通省が業界団体に出したことが分かった。法的根拠がない放射線量検査を輸出事業者などに強要すること自体が「違法の恐れ」と政府が明確な法的見解を示したのは初めて。大きな転換期を迎えることになりそうだ。
国交省の通知(事務連絡)は8月27日付で、港湾運送事業者の団体である日本港運協会(日港協、久保晶三会長)宛てに出された。2カ月前の6月25日付で、国交省は「検査をしないという理由で中古車の船積みを拒否することは港湾運送事業法に抵触する恐れがある」と通知していた。同法15条(差別取扱等の禁止)と21条(事業改善命令)に抵触の恐れがある、というもの。行政処分も示唆した。
この時点では「放射線量検査をしないことを理由に船積み拒否はダメ」というものだったが、今回の通知は「船積み拒否をしたかどうかにかかわらず、輸出業者等に対して放射線検査の実施等を求めたらダメ」と踏み込んだ。
国交省が強く出た背景には、暫定的に解決の方向性が出た6月末以降も、極めて問題がある状況が発覚したからだ。
東京都港区に本社を置き、全国展開するある仲介業者(輸出に関して通関業務などを行う業者)が、「放射線量検査料(1台1500円)を支払わないと、船荷証券(B/L)を渡さない」と中古車輸出業者に通告してきた。船荷証券は荷物を引き渡した証明書で、その後に外国の輸入業者に送る。輸入業者は受け取った船荷証券を示して初めて輸入中古車を受け取ることができる。国交省は、公正な港湾運送を維持する上で極めて問題とみて行動を起こした。
放射線量検査は法令で決まったものではない。船積み業務を行う会社の業界団体と労働組合が原発事故直後に合意。費用は「輸出業者など荷主が負担する」と一方的に決めた。その後も労組が強硬に検査継続にこだわってきた。
大型の輸出港を持つ川崎市が公開するデータでも、19年度以降、130万台弱の検査をしたが、基準値超えの放射線量が検出された例はない。政府も事実上の検査廃止要請を25年1月に表明した。
これまで年間で数十億円の費用を負担させられてきた日本中古車輸出業協同組合(JUMVEA、佐藤博理事長)や日本陸送協会(北村竹朗会長=ゼロ会長)は「7月以降、検査料の支払いはできない」と関係者に伝えていた。
しかし、労組は検査継続を強要。諸経費とともに検査費用の請求を行う仲介業者は労組の意向を忖度(そんたく)し、請求を続けていた。輸出業者の多くも「船積み拒否」が怖く、検査料を泣く泣く支払っていた。
国交省の通知について港運業界の幹部は「重く受け止めている。労組が検査の根拠にしている合意文書についても廃止の申し入れを労組にした」と述べた。労組幹部は「通知は業界団体に出されたもので、われわれはコメントする立場にない」と話した。
法的根拠がない放射線量検査が今も続く(イメージ)
対象者 | 自動車業界 |
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日刊自動車新聞9月4日掲載