2025年9月4日
米国の自動車関税、引き下げ合意も先行き懸念収まらず 相談件数は1カ月で1000件に 経産省調査
日米両政府が自動車・部品の関税を15%に引き下げることで合意した後も、自動車業界で先行きを懸念する声が収まっていないことが、経済産業省が実施した聞き取り調査で明らかになった。
米国関税による日本企業への影響の調査と、その対応のために全国約1千カ所に設置した「相談窓口」には8月27日までに累計5730件の問い合わせが寄せられた。日米両政府は7月23日に自動車・部品の関税を15%に引き下げることで合意したが、この1カ月間で約1千件の相談があり、相談件数のペースは減っていない。相談の内容別では「関税措置の内容について」が半数以上の51%、次いで「資金繰りに関するもの」が38%となっている。
自動車部品メーカーからは「受注量が全体でみると緩やかに減少している。今後の米国市場の景気動向を注視する」「長期的に見て調達先が米国サプライヤーに変更されるリスクがある」などの声があった。「従来の関税2.5%に比べれば負担は増える。生産減少、価格高騰、人手不足など、中堅・中小は余力がない状況が続いている」との声もあった。
関税分の価格転嫁について「追加関税分は取引先が負担することになっている」と回答した部品メーカーがある一方で、鉄鋼・非鉄メーカーから「価格交渉の話はきていないが、関税負担によっては価格のプレッシャーがかかる可能性がある」と懸念する声もある。
今後の設備投資に関しては「先行き不透明で、様子見の企業が多い。これ以上、自動車生産が落ちてくるとサプライチェーン(供給網)全体で部品供給の遅れや収益悪化、雇用や賃上げの影響が懸念される」との部品メーカーの声もあったという。
米国の自動車・部品に対する関税をめぐっては、日本政府側が当初予定していた8月1日に実行されず、現在も関税が15%に引き下げられる時期が明らかになっていない。これも部品メーカーの先行き不安材料となっている。
7月の貿易統計によると、日本からの自動車輸出台数は前年同期比3.2%減の12万4千台だったのに対して、輸出金額は同28.4%減の4221億円と大幅に下落した。自動車に対する25%の追加関税分を小売価格に転嫁せず、自動車メーカーが負担しているためで、追加関税が課せられた4月以降、自動車の輸出台数と輸出金額の増減率が乖離(かいり)している。
一方、経産省側から米国関税影響を受ける企業などに接触する「プッシュ型の取り組み状況」によると、8月31日までに計326回の面談を実施し、7765の企業・団体と対話した。7月31日には、国内自動車メーカー、部品メーカーの首脳と石破茂首相、武藤容治経済産業相が意見を交わした。
企業側からは、関税分の価格転嫁や、転嫁に伴う輸出数量の減少を懸念する声が強く、新市場開拓や事業構造転換に向けた支援に対する要望も多かったという。
経産省では、自動車部品サプライヤーなどの業態転換や事業の多角化を支援するための費用を、26年度予算の概算要求に盛り込むとともに、税制改正で車体課税の抜本見直しや大胆な投資促進税制の創設を要望した。今後、国内産業や地域への影響を見極めてから機動的な政策を展開していく方針。
自動車・部品関税はいつ下がるのか…(イメージ)
対象者 | 自動車業界 |
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日刊自動車新聞9月4日掲載