2025年8月25日
走り出す国産車載OS 「アリーン」「アシモOS」 SDVの競争力を左右 覇権争いの行方に注目
クルマの〝頭脳〟にあたる基盤ソフト(車載OS)。トヨタ自動車は「アリーン」を2025年度内、ホンダは「アシモOS」を26年内にそれぞれ市場投入する計画で、独自の車載OSを搭載した国産車が本格的に走り出す。次世代車の競争軸となるソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)の成否は、車載OSが握ると言っても過言ではない。「国産車載OS」は、SDVで先行する米テスラや中国新興メーカーに追い付き、世界市場で存在感を示すことができるか。
「車載OSはパーソナライズが非常に需要だ。『人に寄り添う』と言う文脈がアシモにつながっている」―。ホンダでSDV開発を主導する四竈真人執行職は、独自開発OSの名称に込めた思いをこう明かす。「アシモ」は00年に発表した人型自立二足歩行ロボットで、人と共存する環境下での運用を前提に開発した。アシモは人の動きの変化についてセンサーから得た情報を統合して推測する「外界認識」や、情報から予測して行動を判断する「自立行動生成」といった機能を備えていたが、車載OSではこうしたコンセプトを継承し、ホンダの独自性を打ち出すという。
アシモOSは、電気自動車(EV)「0(ゼロ)シリーズ」の26年に市販を予定する「サルーン」や、高級ブランド「アキュラ」のEV「RSX」に搭載する。先進運転支援システム(ADAS)から走行性能を変化させるダイナミクス統合制御や車内空間など、車両全体を制御するソフト基盤とし、無線更新機能(OTA)によって性能向上や機能追加を可能とする。ユーザー一人ひとりのニーズに沿って車両が進化していくのがアシモOSの特徴となる。
車載OS開発で日本メーカーの先頭を走るのがトヨタのアリーンだ。25年度内に発売する新型「RAV4」に初搭載するアリーンは、トヨタが明言していた車載OSではなく「ソフトウエアづくりプラットフォーム」と定義を変えた。アプリがハードを制御するOSの機能を利用するための「ミドルウエア」という位置づけだ。
アリーンは3つの要素で構成する。車載ソフトの開発基盤となる「ソフトウエア開発キット(SDK)」、仮想環境でソフトを検証する「ツール」、走行データを収集する基盤「データ」だ。ソフト開発者がアリーン向けのアプリケーションを開発しやすくすることで、サードパーティーと呼ばれる外部からの参画を促す狙いがある。
アリーンを開発したウーブン・バイ・トヨタの隈部肇CEO(最高経営責任者)は「SDVの一番の目的は交通事故をゼロにすること」と話す。「SDVの量産の第一歩を踏み出した」(隈部CEO)RAV4では、ADASと車載インフォテインメント(IVI)の2領域にのみアリーンを採用する。アリーンデータから膨大な走行情報を収集し、ADAS機能の進化を加速させる狙いだ。
一方、RAV4のアリーンは車両操作に関連するボディー系とパワートレイン系には採用せず、車両全体を統べる頭脳とはなっていない。「走る」「曲がる」「止まる」の領域は多くのサプライヤーが関与し、機能部品ごとにソフトを組んできた歴史がある。クルマづくりのレガシー(遺産)を持たないテスラや中国新興メーカーとは異なり、既存の車両構造でSDVを実現するには部品ごとに異なるソフトをまとめる難しさがある。
一口に車載OSとは言っても、自動車メーカーやサプライヤーによってその定義は異なる。車載OSはIVIなどの「情報系」とADASなどの「制御系」に大別できるが、情報系OSでは米グーグルの「アンドロイド」が多くの自動車メーカーで採用が進んでおり、中国市場ではトヨタやホンダなども採用するファーウェイ「ハーモニーOS」が台頭している。欧州勢ではメルセデス・ベンツやBMW、フォルクスワーゲンなどが独自の車載OSを実装済みだが、享受できるサービスや追加できる機能はまちまちだ。
スマートフォンのOSは、アップルの「ⅰOS」とグーグルのアンドロイドの2陣営に集約された。一方、車載OSについては現状、自動車メーカーとIT系を軸に乱立状態にあるが、今後は集約されていく可能性は十分にあり、覇権争いは激しくなりそうだ。
OSは利用者が多いほどコストが下がり、アプリも増えて利便性も高まる。そういう意味では、先行するテスラですら年間販売台数は200万台弱であり、単独では厳しい状況だ。一方、トヨタは単独で販売台数が1千万台超、グループや資本関係があるスバルやマツダ、スズキを合わせると1600万台にのぼる。ホンダは400万台弱だが、SDV領域で協業する日産自動車と車載OSを共通化できれば700万台規模を確保できることになる。
経済産業省は、30年に日本メーカーのSDVの世界市場シェアを3割に当たる1200万台規模へ引き上げる目標を掲げる。車載OSとアプリをつなぐAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)では標準化を目指す方針も打ち出す。日本の車載OSはトヨタとホンダの2陣営に集約される構図となりそうだが、車載OSはSDVの競争力を左右するだけに、海外勢も含め今後の覇権争いの行方が注目される。
対象者 | 一般,自動車業界 |
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日刊自動車新聞 8月25日掲載