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2025年8月14日

〈トヨタ豊田章男会長に聞く〉TGRと提携のハースF1、富士でテスト走行 自動車文化は長期の取り組みで

トヨタ自動車の豊田章男会長は7日、「ハースF1(フォーミュラ・ワン)チーム」のテスト走行が行われた富士スピードウェイ(静岡県小山町)で取材に応じ「自動車文化を作るにはロングタームの取り組みが必要。短期的な費用対効果を超える価値を見出さなくてはならない」と語った。特に自動車メーカーのモータースポーツ活動は新車の販促支援だけでなく、車の楽しさや魅力を伝える役割もある。豊田会長は世界に通用するドライバーの育成も含め、日本に自動車文化を根付かせる重要性を強調した。

 ハースF1チームとトヨタ・ガズー・レーシング(TGR)は2024年10月に車両開発や人材育成などで協力する基本合意契約を結んだ。間もなく1年が経過する中、提携効果は徐々に出始めている

 「(ハースF1代表の)小松(礼雄)さんとは初めて会った時から『昔からのお知り合いですか』という感じだった。それはカーガイとして同じ体温を感じたから。昨年10月に提携を結んで以降、久しぶりにお会いしたが、昨日、居酒屋で一緒に飲んできたような雰囲気だった。私も今朝、取締役会をやってきて会ったとは思えない。この約1年間を振り返って共通している言葉は『自動車を文化にしたい』ということ。自動車文化を作るにはロングタームの取り組みが必要だ。短期的な費用対効果を超える価値を見出さなくてはならない。そうでなければ文化という言葉は使えない」

 豊田会長は09年、社長就任から半年後に経営環境の悪化を背景にF1からの撤退を決めた。若くて速いドライバーが世界一を目指す環境をなくしてしまったことに対して申し訳ない気持ち、心を痛めていたのも事実だ

 「私はトヨタ系ドライバーにF1への道を閉ざした男。それがハースF1と提携したことで、ドライバーにチャンスと道筋を作ってあげられると期待していた。今回のテストでは平川選手が、坪井選手が乗っている。かつては絶対にあり得なかった。(坪井選手には)『タイムは気にするな。ここ何戦かのレースでは絶対にこの瞬間を意識していただろうから、それならばこの瞬間を楽しめ』と話した」

 トヨタ系ドライバーに再び開かれたF1への道。今のトヨタには同じサーキットレースの世界耐久選手権(WEC)、ラリー競技の世界最高峰である世界ラリー選手権(WRC)などの頂点を目指すドライバーがステップアップを踏むステージが整いつつある

 「国内ドライバーの目が変わったと思う。とくにトヨタ系のドライバー。トヨタはあらゆるレースカテゴリーで『この人がエース』と決めずにチャンスを与えているが、(F1を止めたという意味では)今までは誰にもチャンスを与えてなかったかもしれない。今は、多くのトヨタのドライバーが『自分にもチャンスあるんだ』と思い始めてくれていると思う」

 トヨタは独自のレーシングスクール「TGR-DC」を展開しており、ハースと連携したF1挑戦は育成の頂点に位置付けられる。すそ野ではeモータースポーツやカートもサポートし、優秀な選手はTGR-DCに引き上げる道筋も作った。そして富士スピードウェイでのテスト走行ではスクール出身の平川選手、坪井選手が参加した。TGR-DCにはF1にステップアップできる機会があることを示し、育成ドライバーのモチベーションアップに結び付ける考えだ

 「ドライバー育成のステップアップができ始めていると思う。ただ、全部がステップアップでつながっているのではなくて、どのルートからでも(トップに)いける。リアルなカートからの道もあり、eモータースポーツからの道もある。色々な道があっていい。それぞれが得意な道でステップアップする。世界レベルは非常にコンペティティブ。最後は1つの頂点カテゴリーで戦うわけだから、世界選手権レベルまではつないであげることが大事なのだと思う。今のトヨタではそれができる気がしている」

 ハースF1との連携はドライバーの育成だけではない。レースの最前線にはTGRのエンジニアらも加わる。今回の富士テストでもエンジニアやメカニックが訪れ、世界最高峰のF1を戦うチームの所作や動作、オペレーションを学べる機会も持てるようになっている

 「今回の富士テストには子供連れなど多くのファンが来場した。誰かに見られている、期待されていると、実力以上のものが発揮できる。そのきっかけがTGRとの連携で出来始めたと(ハースF1側から)言っていただいている。一方で、長期的な自動車の文化づくりは、それぞれの得意分野で一緒にやっていきたい」

対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞社 8月13日掲載