2025年7月29日
米国の対日関税、15%適用へ 補助金や審査制度見直しも なお不透明感拭えず
米国による相互関税の発動が8月1日に迫る中、日米貿易交渉が電撃合意した。最大の焦点だった自動車・同部品の関税率は15%に下がり、自動車業界からは歓迎のコメントが相次いだ。ただ、日本側は電気自動車(EV)などの普及を促す補助金制度と自動車の審査制度の見直しも迫られる。15%の関税率もどうなるか不透明な状況だ。
関税負担はこれからどうなる?(イメージ)
トランプ政権は、4月から乗用車の輸入関税に25%を上乗せした。従来からの2.5%を足して27.5%となり、日本メーカーにとって大きな負担となった。今回、乗用車と部品の関税を15%に引き下げることで合意した。
日本自動車工業会の片山正則会長は「サプライチェーン(供給網)を含めた日本の自動車産業への壊滅的な影響が緩和され、米国の顧客にとっても最悪の状況は避けられた」と歓迎。日本自動車部品工業会の茅本隆司会長も「今回の合意で日本の自動車部品産業への影響が最小限に止められた」と語った。
追加関税が続いた場合、関税分の負担や米国での値上げを余儀なくされるため、業績悪化が懸念されていた。米国に生産拠点を持たない三菱自動車が公表した2025年4~6月期決算では、米国の関税が144億円の減益要因となり、前年同期比で84%の営業減益になった。
日米貿易交渉では、米国側が「自動車を交渉材料にしない」と発言していたことから、国内の自動車業界ではあきらめムードも漂っていた。一転して自動車と部品の関税が15%に引き下げられたのは、自動車や半導体、鉄鋼など9分野で最大5500億㌦(約81兆円)の投資をすることや、米側が指摘する自動車の「非関税障壁」を見直すことで合意したからだ。
まず「クリーンエネルギー車(CEV)購入補助金」を見直す。トヨタ自動車、ホンダ、現代自動車が参入している燃料電池車(FCV)に最大255万円の補助金が支給されるのに対し、EVの補助金は最大90万円。米側はこの〝補助格差〟を問題視し、EV充電器の補助金も日本の「チャデモ規格」が対象で、米国で普及する「NACS方式」が対象から外れていると不満を表明していた。
また、米国製乗用車を輸入する場合、日本での追加試験なしで公道を走行できるようにする。国土交通省が制度を見直す方針だが、詳細は決まっていない。もっとも、審査制度を見直しても米国からの輸入車が大幅に増えるとは考えにくい。日本のメーカーが米国製乗用車を日本向けに投入する可能性もあるが、貿易赤字の解消効果は限定的だ。
日本の自動車関連企業の幹部は「2.5%だった乗用車の関税が15%で固定される。現在は円安ドル高なので耐えられるが円高が進行すれば厳しい」とこぼす。
さらにベッセント米財務長官は23日、トランプ大統領が日本の履行状況に不満であれば、自動車も含めて25%に戻ると米FOXニュースで語った。日本が合意を順守しているかどうか四半期ごとに調査するという。そもそも今回は日米の「共同合意文書」がなく、米側にとって都合の良いように解釈される恐れがあり、予断を許さない状況が続く。
日刊自動車新聞7月29日掲載