2025年7月24日
〈岐路に立つ自動車税制〉自工会、後藤収 税制部会長に聞く 簡素化・負担軽減の重要性は不変
〝政局〟の可能性が浮上する中、自動車税制の抜本見直しに向けた議論が年末に控える。政治が変わっても自動車関係諸税が過重かつ複雑多岐にわたることは変わらない。日本自動車工業会(自工会)は車両取得時の「環境性能割」廃止や保有時の「自動車税・軽自動車税」と「車両重量税」の一本化を求め、税負担の軽減と簡素化を目指す。中長期的には、モビリティ社会を見据えた新たな税制について議論を促したい考えだ。自工会の後藤収税制部会長(日産自動車理事渉外担当役員)に税制改革のポイントやあるべき姿を聞いた。
―今年は勝負の年となる
「去年の税制大綱で『自動車関係諸税の見直し』という内容をまとめてもらった。これは2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)社会をにらんで税を見直さなければならないということだ。われわれは『マルチパスウェイ戦略』をとっているが、パワートレインはいろいろ変わってくるので従来の(排気量ベースで課税する)やり方では全体を説明することができなくなってきている。二酸化炭素(CO2)排出を削減するための税制のあり方をどう考えていくべきか、ぜひ今年の税制大綱で結論を得る形にしていただきたい」
「まずはその大きな流れでいえば、負担の軽減と簡素化というところがあるわけで、取得時においては環境性能割の廃止と、保有時は2本ある税制を一本化して重量ベースで環境にうまく適合した税制に直してもらいたい。加えて、トランプ米大統領が就任して以降、関税政策が大きく変わり、米国向けの輸出が厳しくなっていくことは間違いない。国内市場の活性化が課題であり、税の見直しとセットで行っていただきたい」
―税収中立の視点から減税分の代替財源をどう考えるか
「確かに税収中立は、課税当局からすると最大の眼目ではあると思うが、自動車の中で本当に『プラスマイナスにしなければいけないのか』というのがわれわれの問題提起だ。日本の自動車税制は非常に負担が過重であり、税制中立の議論に与(くみ)する必要はないのではないかと思っている。もう一つは、トランプ関税などで国内生産が維持できない状況が起こり得る中、取得時の負担軽減を最初にやっていただきたい。税だけですべてが解決する話だと思っていないが、何らかの支援策も考えてもらいたい」
―保有時の税制はなぜ重量ベースに一本化するのか
「電気自動車(EV)は排気量がないので、自動車税は見なしで最も安くなっている。つまり、高級車も軽自動車も一律で安い。重量税は『道路損傷』という意味でユーザーには分かりやすいので、重い車両の税金が高くなるのはある意味で公平な制度だと思う」
―保有時の税制を一本化した場合、軽自動車の扱いは
「歴史的な経緯もあり、登録車と軽自動車は分けてやっていく。制度の基本的な考え方は同じにしてもらう」
―負担の軽減と簡素化の2つの議論をどう進めていくか
「保有時の税一本化は環境性能割のように単純な廃止ではないので、制度設計の見直しが必要になってくる。来年の4月1日から一本化するのは課税当局の方でできない可能性があり、1~2年はずれる可能性がある。そのため、保有についてはエコカー減税やグリーン化特例など、今現在のある税制を延長してつないでもらいたい」
―クルマ社会からモビリティ社会に向け、新たな税制の枠組みが必要だ
「これについては今年の税制改正で結論が出るとは思っていない。『保有から利用』の変化について議論しなければならない。例えば、MaaS(サービスとしてのモビリティ)が広がってくると、その利益に対して課税するとか。車両データを利用して別のビジネスができるかもしれないが、データの利用量に課税するやり方もあり得ると思う。将来的にはクルマから税金を取ろうとしても答えがない。そういう意味でデータを使うところから税金を取るのは分かりやすいと個人的には思う。国民にとって(モビリティが)意味がある世界になって『それだったら税金を払っても仕方ないね』という世界ができてくるだろう」
(編集委員・福井 友則)
後藤収(ごとう・おさむ)部会長
(日産自動車理事渉外担当役員)
対象者 | 自動車業界 |
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日刊自動車新聞7月24日掲載