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2025年7月1日

経産省、海外資本活用ガイドブックを公表 メリットとリスク例示 主体性持って見極めを

 経済産業省は、企業の海外資本活用に向けたガイドブック(手引書)を公表した。世界市場における日本企業のシェア低下を背景に、日本企業の海外資本受け入れ件数が10年前の3倍に増えている。海外資本の受け入れは高度な経営資源の取り込みなどで利点がある一方、雇用・拠点体制への影響や技術流出などリスクもある。手引書では「自社の経営戦略を実現できる相手かどうか、企業が主体性を持ってパートナー企業を見極める必要がある」とした。

 自動車産業は、電動化や知能化など技術の高度化が進んでおり、自社の経営資源のみに頼る〝自前主義〟では成長が難しい局面に差し掛かっている。産業全体としても、国内市場の成熟や少子高齢化を背景に海外市場に目を向ける企業も多く、企業価値の向上を目的に海外資本と手を組むケースが増えてきた。

電動化と知能化で〝自前主義〟では成長が難しい局面だ

 手引書によると、24年の海外企業によるマジョリティ出資(合併、買収及び事業譲渡)、マイノリティ出資(資本参加及び出資拡大)は約250件となり、14年の約3倍に達した。自動車業界でも、19年に仏フォルシアがカーナビなどを手掛けていたクラリオン(現フォルシアクラリオン)を、インドのマザーサングループが23年に市光工業の自動車ミラー事業、24年に八千代工業(現マザーサンヤチヨ・オートモーティブシステムズ)などを傘下に収めるなどしている。

 海外資本を活用する利点として、手引書は強固な経営基盤を確立できることを挙げた。グローバル水準でKPI(指標)管理やポートフォリオの設定ができるほか、透明性が高い人事制度を導入できる利点を例示した。また、海外に事業拠点を持たない中小企業にとっては、海外に販路を拡大できる機会になるともした。

 一方、リスクとしては、リストラや拠点閉鎖などで従業員の雇用に影響が出る可能性もある。企業文化の違いなどもあり、従業員のモチベーション低下につながる恐れもある。手引書はまた、知的財産権に関わる不当なライセンス契約などにより、自社の技術が漏えいする可能性にも言及し「契約時点で、ライセンスの対象技術や料金などを事前に精査する必要がある」とした。

 今後、海外資本の活用を検討している企業には、戦略策定からPMI(買収後の組織統合)の工程で取るべき5つの基本的行動を示した。その中で、経営の自律性をどこまで維持するかの意思決定の必要性や、出資者と自社を結ぶ「中間プレーヤー」の活用などに触れた。また、リスクを最小化する交渉を行った上で「状況によっては方向転換も柔軟に行う必要もある」とした。

日刊自動車新聞7月1日掲載