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2025年6月24日

車両法改正から間もなく30年 新たな転換点へ 訪問特定整備制度がスタート

 1995年7月1日の改正道路運送車両法(車両法)の施行から、間もなく丸30年を迎える。この時、車検を受けてから後で整備するという〝前検査・後整備〟が認められた。ユーザー車検を後押しすることにもつながるため、整備事業者に大きなインパクトを与えた。今年もこのタイミングで、整備に関する規制の変更や見直しが相次いで行われる。このうち、6月30日に施行される訪問特定整備制度は、一定の条件下で整備士が客先で特定整備の作業を行えるようになるなど、これまでにはない大きな変化となる。整備業界は再び、新たな転換点を迎えようとしている。

整備業界に大きなインパクトを与えた1995年7月の車両法改正から間もなく30年を迎える

 整備業界を揺るがした1995年の車両法改正。前検査・後整備において、特に、整備事業者が懸念したのは「前検査で合格した車は、故障しないと整備をしない」(コバックの小林憲司社長)ことだった。当時の整備事業者は、車検に通るための整備を先に行ってから継続検査を実施していたことから、すぐに故障するリスクは小さかった。カーライフハギワラ(東京都八王子市)の萩原良夫会長は、「お客さまが次の2年間、安全、安心に乗ってもらうというスタンスだった」としている。

 そのため、前検査・後整備を認めると、「ユーザー車検代行を奨励する流れになる」(小林社長)と言われた。実際、車検の合格のみを目的としたユーザー車検の代行業者が台頭してきた。加えて、「前検査後の24カ月点検もどれだけ行われたのだろうか」(同)と、懐疑的な声も少なくなかった。

 実際には、もともとの車両の性能が高くなったこともあり、この30年間、前検査・後整備が大きな社会問題を引き起こすことはなかった。しかし、法律で定められている12カ月点検の実施率は60%程度といわれている。この時の車両法改正で明確となった、自動車ユーザーの保守管理意識が著しく向上したとは言い難い。萩原会長は「センサー類やカメラなどの不具合は事故に直結する。1年に1回は点検整備制度の中で確認する必要がある」と、定期的な点検の重要性を訴える。

 2025年も大きな制度改正を控えている。国土交通省物流・自動車局の多田善隆自動車整備課長が、整備に対する「新しい概念」と説明する訪問特定整備制度が今月30日にスタートする。この制度は認証工場の要件を満たす場所で行う訪問特定整備と、要件は満たさないものの安全な場所で行う限定訪問特定整備の大きく2つに分けられる。整備の仕事への付加価値を高めることが狙いだ。

 同制度に基づいて整備を行う場合、最寄りの運輸支局への届け出や出張費用などの明示のほか、作業記録も行わなければならない。また、限定訪問特定整備の場合、作業はブレーキパッドなど一部の部品交換だけに限られる。こうしたルールなどが厳格に定めているのは、認証工場制度の範囲内で行うことが大前提にあるからだ。多田課長もこれを「変えるつもりはない」と強調する。

 出張整備を行うSeibii(セイビー、東京都港区)の千村真希社長は、「自動車整備は安全、安心が一丁目一番地」とし、「最初は厳しい方が、長いスパンでみれば(制度が)続くのではないか」と受け止める。細かなルールが定められていることについても、「(整備業へ)簡単に手を出すべきではないので、このような形になったと思う」とみる。

 同社が新制度に基づく訪問特定整備(限定を含む)ができるのは、相模原整備工場(相模原市中央区)がある神奈川県のみ。限定訪問特定整備でオルタネーター(発電機)、ブレーキパッドの交換などを中心に行うことを想定している。訪問特定整備ができる神奈川県内も「少しずつの利用になるだろう」(千村社長)と慎重な見通しを示す。

 また、萩原会長はユーザーに対するハードルの高さと、罰則の厳しさから「実際にやる整備事業者は少ないのではないか」と予測する。そもそも整備は「車を見ないと分からない部分もある。(訪問するなら)相応の料金をもらわないと採算が合わないだろう」と分析している。

日刊自動車新聞6月24日掲載