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2025年6月24日

パワー半導体に陰り EV失速で事業見直し迫られる各社 連携や再編の可能性

 電気自動車(EV)市場が踊り場を迎える中、パワー半導体市場も思うような伸びが見込めず、参入各社の事業に影響が広がりそうだ。米ウルフスピードが米連邦破産法11条(チャプター11、日本の民事再生法に相当)適用を申請する見込みになり、ルネサスエレクトロニクスは約2500億円の損失を計上する可能性を23日に発表した。長期的には、特に「乗用車でEVシフトが進む」との見立てに変わりはないものの、ペースが読みにくくなっている。中国勢の攻勢もあり、各社のパワー半導体関連事業の見直しが進む可能性もある。

米ウルフスピードとウエハーの供給や預託金提供契約を結ぶルネサスの柴田英利CEO(写真左、23年7月)

 ウルフスピードは、EV向けなどを柱に、炭化ケイ素(SiC)ウエハーの開発・製造に力を入れていた。ルネサスは、このウエハーの長期にわたる確保を主な狙いに2023年に20億㌦(約2920億円)を「預託金」の形で貸し付ける契約を結んでいた。SiC製ウエハーはシリコン(Si)系より高電圧に耐えられ、省電力性能にも優れることから、EVの性能向上に欠かせないとして注目されている。

 ただ、ウルフスピードはかねて財務上の課題が指摘されていた。半導体に詳しいオムディアの南川明氏は「ウルフスピードの行き詰まりの主因は中国で国の支援によって大規模な投資が進み、価格が大きく下落したこと。この状況は当面変わらない」と指摘。「(ルネサスの)早期の判断は妥当で、投資を大きく見直すことになるだろう」とみる。さらに「日本政府がかねて検討しているパワー半導体の競争力強化へ、再編が起きる可能性も高い」と予想する。

 ウルフスピードが申請を検討している米チャプター11では、申請前に債権者の意向を取りまとめることができ、再建手続きの迅速化などにつながる。破産手続きでは株主の持ち分は基本的に無価値となるのが基本だが、同社が検討している枠組みでは、総負債を最大で7割削減し、既存株主には株式の3~5%を割り当てるという。

 ルネサスをはじめ日系半導体各社のパワー半導体事業には昨年来、逆風が吹いている。欧州などの補助金打ち切りなどを受けてEV市場の伸びが鈍化。さらに中国が国策として半導体をはじめ電子部品の開発や生産を強化し、メーカーも半導体の国内調達を進めていることなどから、価格競争も激しくなり始めた。性能面でも「中国勢が追い付いてきている」(関係者)。車載半導体は一般に1~2世代前の「レガシー半導体」が用いられ、米国による対中規制の範囲に入らないため、製造装置を中国企業が調達しやすいといった事情もある。

 調査会社の富士経済も「2024年はEV販売が低迷したほか、車載バッテリーの価格下落により、Siから(SiCへの)置き換えが進まず、市場は伸び悩んだ」と分析している。

 パワー半導体市況が弱含みになる中で、日本勢の投資戦略も見直しを余儀なくされそうだ。すでにルネサスは、高崎工場(群馬県高崎市)でのSiC半導体の量産を見送る方針。甲府事業所(山梨県甲斐市)でのSi半導体の量産についても「限界的まで慎重な目線を維持する」とし、白紙撤回ではないものの、慎重に判断する姿勢を示す。

 パワー半導体事業をめぐっては世界大手もリストラを進めている。独インフィニオンは昨年、約1400人の人員削減を発表。米オンセミも人員削減を進める方針を示している。ルネサスもウエハーの調達体制や財務面で打撃を受けるとみられる。

 ルネサスのほかにも、東芝とローム、デンソーと富士電機といった連携の動き、さらには再編も注目される。市場が変調する今、部素材のサプライチェーン(供給網)確保や生産連携を含めて、各社とも戦略の再構築が求められそうだ。

日刊自動車新聞6月24日掲載