一般社団法人 日本自動車会議所

会員向けクルマ
biz

INFORMATIONクルマの情報館

自動車産業インフォメーション

2025年6月23日

FC大型トラック本格発進 まずは重点地域の6都県に集中投入 水素普及モデルを確立

 燃料電池(FC)大型トラックが国内で走り出す。東京都を起点とした幹線物流向けに、年内にもFC大型トラックが50台導入される計画だ。乗用の燃料電池車(FCV)に対して10倍近いタンク容量を持つ大型トラックを普及させ、水素利用を拡大させる狙いだ。ただ、軽油比で2~3倍となる水素燃料のコストや、ディーゼル車の6倍以上となる車両価格の穴埋めについては国の手厚い補助頼みなのが現状だ。まずは重点地域を定めて車両やインフラを集中投入することで水素普及モデルを確立。2030年をターゲットに技術革新や水素利用拡大によるコスト低減を進めることでディーゼル車との差を縮めたい考えだ。

 今年から本格的な市場投入を開始するのが、トヨタ自動車などが出資する商用車技術開発会社のコマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT、中嶋裕樹社長、東京都文京区)が手掛けるFC大型トラックだ。日野自動車の「プロフィア」をベース車とし、トヨタのFCV「ミライ」で培ったFCスタックや水素タンクなどの技術を活用している。燃料はミライと同様に70㍋ パスカル の気体水素を用い、床下やキャビン後方などに大型の水素タンクを配置する。容量はミライの約9倍となる50㌔㌘で、航続距離は600㌔㍍を想定している。

  
 今年から本格市場導入するCJPTのFC大型トラック

 CJPTはFC大型トラックの車両価格を公表していないが、経済産業省の資料によると1億6千万円程度になるとみられる。ベースのプロフィアに比べて6倍以上の価格となるが、国はディーゼル車との差額の4分の3を補助しFCトラックの導入を後押しする。また、普及の妨げとなる燃料費も補助する。燃料補助については、水素需要を率先して喚起する重点地域を定め、軽油との差額の4分の3(水素1㌔㌘当たり約700円)を支給する。

 重点地域は、東京、福島、神奈川、愛知、兵庫、福岡の6都県。重点地域内には約90の水素ステーション(ST)があり、全国の半数以上を占める。大量に水素を消費するFC大型トラックを重点地域で活用し、水素消費を増やして水素STの採算性を高める狙いだ。

 地域独自の支援も打ち出す。東京都は国の補助金に加えて最大5600万円を助成し、ディーゼル車と実質的に同じ価格で購入できるようにする。中小企業向けにはメンテナンス経費の支援も含め最大9600万円助成し、燃料費も年間2880万円を補助する。今年中にFC大型トラックを導入する多くの事業者は、国と東京都の補助金を活用する見通しだ。

  

 貨物自動車の保有が国内1位の愛知県もFCトラックの導入に積極的な姿勢を示す。東京都と同様に独自の補助金を導入し、25年以降で年間10台程度のペースで大型FCトラックを普及させる方針だ。導入補助金や支援スキームによって30年には小型トラックやバスも含めた商用FC車の導入台数およびモビリティ由来の水素需要で全国1位を目指す。

 30年以降の本格的な普及に向けて自動車メーカーも開発の手を緩めない。トヨタは従来の乗用車ベースでなく、大型トラックへの搭載を想定した新たなFCシステムを開発中だ。従来よりもエネルギー効率は2割向上、耐久性は2倍に高めてディーゼル車に近づけるという。大型トラック向けは28年にも投入し、最大で3千基まで販売を増やす。

 FCでいすゞ自動車と組むホンダも、大型トラック向けの第3世代FCモジュールを開発している。従来より容積当たりの出力密度を3倍以上に高め、製造コストも半減させる。30年には定置用も含めて外販数を増やし、年間6万基販売する計画だ。

 日本は17年、世界に先駆けて「水素基本戦略」を掲げ、FC関連技術も世界をリードしてきた。ただ、国内の水素需要は伸び悩み、20年頃から欧州や米国、中国が積極的な水素普及戦略を打ち出し、日本を上回るスピードで水素実装を進めている。特に中国の年間水素需要は日本の15倍となる約3千万㌧と他国を圧倒し、幹線物流でFCトラックを活用する「水素ハイウェイ政策」によって、FCトラックの世界販売シェアは中国メーカーが9割を占めている。

 資源が乏しい日本において、水素は環境対応とエネルギー安全保障の両面で重要な役割を担う。一方、戦略的な政策と圧倒的な物量で水素普及を加速させる中国や欧州に対抗するためには、日本が強みを持つFC技術で世界市場に打って出る必要がある。FCVの本命と目される大型トラックの普及が、日本の水素戦略の未来を占う試金石となりそうだ。

カテゴリー キャンペーン・表彰・記念日
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞6月23日掲載