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自動車産業インフォメーション

2025年6月5日

トランプ関税の先行き 神経尖らせる部品業界 米での増産・生産移転 検討企業が増加

 〝トランプ関税〟の先行きに自動車部品業界が引き続き神経を尖らせている。日刊自動車新聞が実施した主要各社へのアンケート(回答49社)でも、米国での生産増や米国への生産移転を検討する企業が、今の時点でもそれぞれ1割前後に達した。情勢次第ではさらに増える可能性もありそうだが、政策の朝令暮改が常態化し、取引先の自動車メーカーも様子見を決め込む中で、投資を伴う経営判断はしにくい。情報収集をサポートするサービスも出てきた。

 「関税の直接の影響は10億円規模でみているが、さらに効いてくる可能性はある」。トピー工業の石井博美社長はこう説明する。米国に生産工場があり、直接影響は少ないとみつつ「(市況悪化など)間接的な影響ははまだ見通せない」と悩ましげだ。ヨロズの志藤昭彦会長も「当社は米国拠点もあるし、対応できる」としつつ「部品メーカーさんの動向や、お願いする仕事量がどうなるかが課題だ。サプライチェーン(供給網)も含めて対応しないといけない」と警戒する。

 コスト増になる場合の対応としては、バンドー化学の植野富夫社長が「必要に応じて価格転嫁を考えたい」と話すように、多くのサプライヤーはまず、取引先と按分(あんぶん)することを想定しているようだ。

 一方で、生産体制の組み替えの動きも一部ではみられる。ハンガリー拠点を活用する考えを示すのはダイヤモンドエレクトリックホールディングス(HD)。小野有理社長は「北米のビッグスリーに出す点火コイルは米国内で製造しており、影響が強く出ることはない」とした上で「ベストは米国内で調達、製造することだが、グローバルな製造拠点を生かし、関税を回避することは可能だ」と見立てる。三ツ星ベルトの幹部も米国拠点について「生産余力はまだある。設備増強も視野に入れる」と話した。

 ZFジャパン(横浜市中区)の多田直純社長は「(顧客に)関税分の負担をお願いするのに加えて、米国にはトランスミッションの工場もあり、グローバルサプライヤーとして米国拠点の活用を打診するなどしている。実際、現地化などの背景で引き合いは強くなってきている」と話す。

 政策の先行き不透明さを嘆く声は依然として多い。住友電気工業の井上治社長は「毎週のように言うことが違う。(大統領は)バーンと打ち出して妥協点を探しているのだろう。情報を速やかに入手し、影響を見極めたい」と話す。

 素材や部品各社の情報収集を支援するサービスも出てきた。鉄鋼製品の営業・調達に関するコンサルティングを手掛けるヤマザキ(東京都港区)は、メキシコなどで情報収集に当たりつつ、業界へのコンサルティングを展開する。日本のティア1(一次部品メーカー)層の北米での動向について、山崎耕平社長は「現調率の向上は必須で、サプライヤーへの協力要請が見られる」と指摘する。

 アルプスアルパインの泉英男社長CEO(最高経営責任者)は「ワーストのシナリオも想定していたが、最近の動きも見ればそれよりは影響は小さくなるだろう」と期待を抱く。もっとも、こうした情勢下で、投資を伴う経営判断がしにくいことには変わりない。ホンダの三部敏宏社長は決算会見で「今は(米国拠点の)シフトを増やすなど設備投資をしない増強をした場合、どうなるかを考えているが、その先には設備投資も考えることになる」と語った。

自動車部品メーカーも頭を悩ませる(イメージ)

対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞 6月5日掲載