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2025年5月29日

商用車メーカー、EVトラックで新提案 ハードとソフト組み合わせ 普及に試行錯誤

 電気トラック(EVトラック)をベースとしたモバイルオフィスやウォークスルー型の荷台を商用各社が提案している。新たな用途を含め、EVトラックの普及につなげるのが狙いだ。ただ、主力のディーゼルエンジン車と比べ価格や性能面でまだ開きがあることも確か。各社はコスト削減などを急ぐ一方、再生可能エネルギーの活用と一体でEVトラックを売り込むなど、普及に知恵を絞る。

 日野自動車は「デュトロZ EV モバイルオフィス」を開発した。車内には椅子やテーブル、住宅用エアコン、大型モニターを設置してある。主に自治体に向け、災害時の現場指揮や消防指揮などの用途を想定する。床面には6本の固定用レールを組み込んであり、車内のレイアウトを変えられるのも特徴だ。

 いすゞ自動車の「エルフEV ウォークスルーバン」は、車体床面を低くできるEVトラックの利点をフル活用し、キャブ(運転台)と荷室の間を成人男性が出入りできる開口部を設けた。キャブの床面も普通の「エルフEV」より30㌢㍍ほど下げたという。価格などは未定だが、発売を視野に入れる。

 商用各社は2022年から翌年にかけ、小型EVトラックの新型車や改良車を相次ぎ発売した。各社の累計販売は「エルフEV」が約1千台(24年度末)、「デュトロZ EV」は1650台(同)、三菱ふそうトラック・バスの「eキャンター」が2千台超(24年末)だ。三菱ふそうの林春樹副社長は「ディーゼル車からしっかり代替できる商品に変わっている」と完成度の高さを強調する。

 ただ、現実には資金力のある大手運送事業者で計画的な導入が進む半面、全体の9割以上を占める中小・小規模(零細)運送事業者は慎重な姿勢を崩さない。国は同車格のディーゼル車との差額の3分の2を補助金として出し、普及を促しているが、航続距離や充電時間、寿命など車両価格以外の不安も未だに大きいようだ。

 このため、各社はリース販売やエネルギー関連サービスを強化している。日野の子会社、キューブリンクス(桐明幹代表、東京都新宿区)は、充電設備や太陽光パネルなどの設置支援を手掛ける。三菱ふそうは三菱商事、三菱自動車と共同出資会社イブニオン(窪田賢太社長、川崎市中原区)を立ち上げ、エネルギー管理を含め、EVへの移行を支援している。

 国土交通省も、商用EVのコスト削減効果や再エネ設備、蓄電池などと組み合わせた導入事例をガイドラインとして示す考え。また、商用車を念頭に電池交換式EVの国際基準案づくりにも着手した。電池交換式は、EVトラックの使い勝手が高まる上、車両と電池の所有権を分ける「車電分離」で導入コストを下げる効果も期待できる。

 政府は、30年までに中~小型商用車(新車)の最大3割を電動車にし、大型車は20年代に5千台を先行導入した上で、30年までに普及目標を決めることにしている。世界的にEV販売が鈍る中、商用各社はハードとソフトを組み合わせ、EVトラックの普及に試行錯誤している。

(中村 俊甫)


「デュトロZ EV モバイルオフィス」


床面の低さを活用し、机や椅子、モニターなどを組み込んだ


「エルフEV ウォークスルーバン」


キャブ(運転台)の床面も下げている

 

日刊自動車新聞5月27日掲載