会員向けクルマ
biz

INFORMATIONクルマの情報館

自動車産業インフォメーション

2025年5月15日

連載「波乱 自動車メーカー決算を読む」(1)暗転 情勢一変 6社が最終減益 通期見通しは見送り続出

 上場する国内自動車メーカー9社の決算が出そろった。2025年3月期は4社の過去最高を含む5社が増収だったが、7社が営業減益、6社が最終減益、2社が最終赤字に終わった。円安効果をアジアの販売減や労務費の増加などが打ち消し、7社が過去最高の営業利益だった24年3月期から情勢は一変した。トランプ米政権の関税影響が見通せず、26年3月期も4社が最終減益を見込む。日産自動車とマツダ、スバルの3社は業績予想を見送った。

 9社合計の営業利益は約7兆7千億円。前年度から1兆3千億円も減った。売上高はトヨタ自動車やホンダ、マツダ、スズキが過去最高となっただけに、事業環境の厳しさが浮き彫りとなった。

 要因の一つが世界販売の減少だ。連結売上台数はマツダとスズキを除く7社が前年実績を下回った。認証不正や品質問題の影響で思うように新車をつくれなかったトヨタの佐藤恒治社長は「車をしっかりつくって届けるという基本動作を徹底する大切さを改めて実感した」と振り返る。

 中国事業も業績の足かせだ。電気自動車(EV)で出遅れた日本勢は軒並み苦戦を強いられており、ハイブリッド車(HV)で善戦したトヨタでさえ前年度比5.9%減、日産は12.2%減、マツダは23.1%減と大きく台数を落とした。

 コロナ禍からの回復に伴う競争激化で増えたインセンティブ(販売奨励金)も利益を圧迫した。北米で販売を伸ばしたマツダの毛籠勝弘社長は「市場が激化したことでインセンティブの支出がわれわれの想定を少し超えた」と振り返る。ホンダは北米で導入を本格化しているEVを拡販するためインセンティブが増加した。身銭を切らざるを得ないEVシフトの厳しさを予感させる。

 一方で、為替は対ドルの円安傾向が続き、利益面で追い風要因になった。前年度から8円円安の1㌦=153円で着地したトヨタは、為替影響が営業利益を5350億円押し上げた。トヨタやホンダでは、ストロングハイブリッド車(HV)の販売増も収益を支えた。

 26年3月期の見通しはさらに波乱含みだ。米の関税影響を通期で試算し、業績見通しに織り込んだのはホンダや三菱自動車、いすゞ自動車のみ。トヨタは足元の4、5月の影響だけを織り込んだ。各社は、関税影響が表面化し始める第1四半期の業績発表までにより確度の高い見通しを示す方針だが、日米交渉も含め、先行きは見通しにくい。

 逆風が吹き荒れる米中市場とは無縁のスズキは25年3月期、売上高と各利益段階で過去最高を更新した。26年3月期も売上高は引き続き、過去最高を更新する見通しだが、営業および最終利益は2割超、減るとの見立てだ。鈴木俊宏社長は「個と会社で稼ぐ力をレベルアップして対応する」と語るが、世界経済は波乱含みだ。電動化・知能化投資に中国勢の台頭も重なり、経営の舵取りは一段と難しさを増す。

対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞 5月15日掲載