2025年5月14日
トランプ関税で困惑する自動車メーカー 市場動向や値上げ幅を踏まえ6月以降に方針
自動車メーカー各社が〝トランプ関税〟の影響を読み切れず困惑している。今は日米関税交渉を注視するが、合意内容が見通せない上に、関税政策自体も二転三転し「合理的に先行きを算定する状況にない」(マツダの毛籠勝弘社長)。このため、トヨタ自動車は4、5月に限って関税影響を業績見通しに含め、マツダは通期見通しを示さなかった。各社は、追加関税前の流通在庫が底をつく6月以降の市場動向や競合他社の値上げ幅をにらみつつ、第1四半期の業績発表までに何とか影響額のめどをつけたい考えだが、先行きは依然として読みにくい。
高関税の業績影響は米国事業の依存度によってばらつきがある。世界販売の約3割を米国が占め、このうちの8割を日本などからの輸入でまかなうマツダは、他の自動車メーカーに比べて業績インパクトが大きい。毛籠社長は足元の関税影響について「さまざまな特殊要因がある」と前置きした上で「4月単月だけでも90億~100億円の間だ」と明かした。
マツダの通期業績に与える関税影響は単純計算で1千億円規模と試算できる。25年3月期の純利益が吹き飛ぶインパクトだ。ただ、毛籠社長は「これはまだ通期に投影すべき内容ではない」と冷静だ。同社は部門横断の対応チームを立ち上げ、関税影響の最小化に乗り出した。米工場で生産する「CX―50」のカナダ向けを米国向けに切り替えるほか、米国外での販売も伸ばし、前年度(約130万台)並みの世界販売を維持する方針を掲げる。
通期業績を「未定」とした背景には、車両価格への関税負担の転嫁について方針を探る狙いもある。最高財務責任者(CFO)のジェフリー・エイチ・ガイトン専務執行役員は「在庫がある間にセグメントごとの市場トレンドを分析していく」と語った。追加関税前の流通在庫がほぼなくなり、関税影響が販売価格に上乗せされる6月以降の市場動向を注視する。
足元の影響のみを通期見通しに織り込んだトヨタも6月以降の米国市場の行く末を注視する。宮崎洋一副社長は「競合や実需を見て需要が強ければ値上げするが、関税があるからといって短期的、場当たり的な対応はとらない」と話した。ガソリン車よりも利益率が高いハイブリッド車(HV)の販売が好調で、インセンティブ(販売奨励金)も抑制してきたトヨタは関税負担の吸収余地はある方だが、競合他社の出方を見て、関税負担の吸収と転嫁のバランスを見極める。
日米関税交渉は夏ごろまでに決着するとの見方もある。自動車の追加関税が撤回されるハードルは高いが、関税率が定まれば不透明感は解消される。高関税が恒久化されれば、関税回避に向けた動きが加速することになりそうだ。米国販売の全量を輸入する三菱自動車は、日産自動車の米国工場に投資し、SUVを共同生産する検討に入った。トヨタの佐藤恒治社長も「中長期的には現地の顧客に適した商品を現地で開発し、生産する形をとっていく」と話す。
自動車メーカーが明確な方針を示すのは短期策が6月以降、中長期策は貿易交渉が決着する夏以降になりそうだ。
対象者 | 一般,自動車業界 |
---|
日刊自動車新聞 5月14日掲載