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2024年8月27日

着座型パーソナルモビリティ実用化 高齢者の新たな移動手段

高齢ドライバーによる交通事故が後を絶たない。事故削減のため、警察庁では運転免許証を自主的に返納するよう呼び掛けるが、公共交通機関の少ない地方では、自家用車がなければ自由に移動ができなくなる。電動車いすやシニアカーといった高齢者向けのモビリティが普及しているものの、ラインアップが少ないことが課題となっている。高齢者の新たな移動手段の提供に勝機を見出しているのは電動バイクや電動キックボードなどを製造販売する新興メーカーだ。高齢者も使いやすい「着座型」のパーソナルモビリティの実用化で、社会課題解決に挑もうとしている。

警察庁によると、2023年末での75歳以上の運転免許保有者数は前年比9.3%増の728万2757人だった。75歳以上で23年中に免許証を返納した人数は同4.3%減の26万1569人。免許返納者数は、東京・池袋で高齢ドライバーが母子をはねて死亡させた事故直後の20年は過去最多の35万428人だったが、翌年以降、右肩下がりで減少しているのが実情だ。

免許証の返納後、公共交通機関以外の移動手段と言えば、自転車、シニアカー、電動車いすなど。自転車では高齢者の体力で乗り続けることが難しく、シニアカーでは最高速度が最大で時速6㌔㍍のため長距離の移動には向かない。このため身体への負担が少なく、免許不要の着座型モビリティの開発を新興メーカーが進めている。

電動バイクを手がけるグラフィット(鳴海禎造社長、和歌山県和歌山市)は、四輪の特定小型原動機付自転車を開発中だ。同社では電動バイクの試乗会を実施するたびに「免許返納後の親が乗れる三輪車や四輪車はないのか」といった要望が上がっていたという。鳴海社長は「免許返納後にシニアカーに乗り替えとなると、抵抗を持つ方もいる」と話す。

シニアカーは75歳以上の後期高齢者がメインユーザーだが、同社は40歳代や50歳代でも乗りやすい仕様やデザインとすることで、免許返納後も抵抗なく乗れるモビリティに仕上げる予定だ。特定小型原付に区分されるため、シニアカーよりもスピードを出すことができ、行動範囲を広げられることも訴求ポイントとなる。

特定小型原付の課題は、600㍉㍍以下という幅の狭さによる段差などを乗り越える際の安定感だ。同社の開発車両には、車速やハンドル角度の情報などで車体の傾斜角を制御するアイシンの「リーンステア制御」を採用し、バランスを取りやすくして安全性を高めた。

7月には和歌山県と大阪府、東京都で同車両の試乗会を実施し、約120人が体感した。試乗会ではハンドル形状やフットレストの広さについての要望が出たという。今後も試乗会を継続し、集めた意見を開発に落とし込んでいく。26年ごろをめどに市場投入を目指す。

米国の電動マイクロモビリティ大手のLime(ライム)も着座型を武器に日本市場へ参入する。19日、日本初となる着座型パーソナルモビリティのシェアリングサービスを開始。同社製の電動キックボートと合わせて計200台、東京都渋谷区や新宿区など6エリアに40以上の駐輪場を設置した。着座型は重心が下がるため安定性が良く、60歳以上を含めた幅広い年齢層をターゲットとしている。

高齢者の移動手段の一つ「セニアカー」を提供し続けているのはスズキだ。現在は安全機能を強化し、商品力を高めている。スズキはセニアカーの知見や技術を生かして新たな小型モビリティも開発する考え。23年秋に開催された「ジャパンモビリティショー2023」では、着座型四輪の特定小型原動機付き自転車「スズカーゴ」や「スズキ・ゴー!」を披露した。6月に開いた株主総会で鈴木俊宏社長は「セニアカーのユニットを使いながら、いろんな場所に足を運んでもらえるような電動モビリティを作りたい」と新型モビリティの開発に意欲を示す。

免許返納後も高齢者が安全に移動を楽しめる世の中に―。自動車メーカーや新興メーカーが開発したパーソナルモビリティが当たり前のように道を行き交う日が来るかもしれない。同時に高齢者の利用が増えることで、事故防止に向けた取り組みがこれまで以上に求められそうだ。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞8月24日掲載