2024年6月19日
IEA「35年にEV市場は5倍に」 手ごろな価格での販売成功が不可欠
世界的に踊り場に差しかかったとも言われる電気自動車(EV)市場。長期的なEVシフトは確実だが、そのペースは国・地域ごとに異なりそうだ。「2035年にはEV市場が今の5倍に拡大する」と予測する国際エネルギー機関(IEA)だが、このシナリオの実現には「手ごろな価格のEVの発売が成功するかどうかにかかっている」とも指摘する。EVシフトのペースに翻弄(ほんろう)されず、着実に稼ぐ工夫が自動車や部品メーカーに求められる。
IEA「EVアウトルック」の最新版によると、24年のEV(プラグインハイブリッド車含む)の世界販売は前年比2割増の1700万台になる見通し。
各国政府が公表した政策や目標をもとにしたシナリオ(STEPS)では、30年には4500万台、35年には6500万台近くに達すると予測。政府や企業の意欲的な目標を織り込んだシナリオ(APS)の場合、30年は4900万台、35年は7800万台へとさらに増える。
23年版では、30年時点の市場予測がSTEPSシナリオで4100万台、APSシナリオで4500万台だったため、予測を上方修正したことになる。
ただし、このシナリオが成立する前提として、IEAはいくつかの条件もつけた。その一つがコストだ。維持費ではエンジン車より有利なEVだが、車体価格が割高なら利点は相殺されてしまう。EVの本格普及には「EVと内燃機関車の価格の均衡化が重要な転換点となる」とIEAは指摘する。
EVの価格は着実に下がりつつある。IEAによると、中国の場合、18年にはEVの方が16%ほど価格が高かったが、22年には逆に14%ほどEVの方がガソリン車よりも安くなった。このデータには補助金を織り込んでおらず、実際はEVがより安く購入できたことになる。
ただ、中国以外では様相が異なる。アメリカやイギリスでは22年時点でもそれぞれ59%、44%ほどEVの方が高く、価格差は依然として大きい。ドイツやフランスは若干だが価格差がより大きい。IEAは触れていないが、電池材料価格の高騰などが響いたようだ。
こうした状況も踏まえ、IEAは「多くの市場変動が価格の均衡を遅らせる可能性がある」と指摘した。規制や地政学的なリスク、技術進化のスピードなどが主な変動要因だ。こうした要因に左右されにくいサプライチェーン(供給網)を含め、自動車メーカーとして、再投資に充てる収益をEV販売で生み出さなければ普及は遠のく。
技術の進化が激しいうえに「規模の経済がコストを下げる」という製造業の〝常識〟が通じにくいEVの世界。自動車や部品メーカーには不確実性の高い市場の先行きに柔軟に応じられる戦略の構築が求められそうだ。
カテゴリー | 白書・意見書・刊行物 |
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対象者 | 自動車業界 |
日刊自動車新聞6月12日掲載