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自動車産業インフォメーション

2023年8月23日

自動車部品メーカーが「脱・東京」 本社移転の動き相次ぐ

働く時間や場所にとらわれないリモートワークが定着し、東京都心部から住居を地方に移す社員もいる中、本社を東京以外に移転する自動車部品メーカーが相次いでいる。日本ミシュランタイヤ(須藤元社長)は1日付で、東京・新宿区にあった本社の研究開発拠点のあった群馬県太田市への移転を完了した。

横浜ゴムは今年3月、東京都港区にあった本社を平塚製造所(神奈川県平塚市)に移転した。ボッシュ(クラウス・メーダ―社長)は東京都渋谷区にある本社を、2024年竣工予定で横浜市都筑区に建設中の研究開発拠点に移す。本社移転のキーワードは脱・東京と連携強化だ。

日本ミシュランの本社の移転先は太田市にある仏ミシュラングループでアジア地区最大の研究開発拠点である「太田サイト」だ。本社移転後、新宿のオフィスは縮小して残す。本社を移す前の新宿の事務所で働く従業員は約150人おり、このうちの100人ほどの勤務地が本社移転後の太田市に変更となった。現在、太田市に引っ越した従業員は約20人で、残りはリモートワークが中心となり、太田市の本社への出勤日は、従業員とマネージャーが協議して決める。

従業員向けに太田市内の契約ホテルへの宿泊サポートや社宅を提供する。東京などから太田市の本社までシャトルバス、特急の利用、自家用車による通勤を認める。シャトルバスと特急利用時の通勤時間を勤務時間に換算するなど、太田市に転居しない従業員の待遇を手厚くしている。家庭の事情などから転居しにくいケースもあり、こうした従業員が本社移転後も働き続けられるように、負担を軽減する待遇を採り入れたという。

日本ミシュランが太田市への本社移転を決めたのは、コロナ禍を経験して「ワイワイガヤガヤによって生まれるブレークスルーを失ってみて初めて分かった。社内も社外も1カ所に集まって意見を出し合うことは重要」(須藤社長)と判断したからだ。

太田市に移した新しい本社では、社員同士や他社とのコラボレーションを推進するための仕掛けづくりを進める。この一環で敷地内に社員同士やパートナー企業とコミュニケーションを取る場として「コラボ棟」を来春にも新設する。

太田市の拠点ではすでに、群馬積層造形プラットフォーム(鈴木宏子代表理事)と連携し、地元の自動車部品メーカーとともに金属3Dプリンターを金型や部品の製造に活用する研究プロジェクトを推進してきた。今後、太田市に完成車拠点のあるスバルや部品メーカーと連携を強化する方針で、社内外のコミュニケーションを活性化することによるイノベーションの実現に期待する。

一方、横浜ゴムが本社を平塚製造所に移転したのは、自動車業界が大きく変化する中で、企画・生産・販売・技術・物流を集約することで、各部門が効率的に協議して意思決定を迅速化することが狙いだ。横浜ゴムもコロナ禍で、リモートワークなど新しい働き方を積極的に採り入れ、本社移転に伴う従業員の負担軽減を図っている。

国内事業所を大きく再編するのがボッシュだ。横浜市都筑区に地上7階・地下2階、延べ床面積5万3千平方㍍の施設を建設する。完成後は渋谷にある本社と分散している研究開発拠点を含め、東京・横浜エリアにある8拠点を新しい施設に集約する。

自動車の電動化技術や自動運転・先進運転支援システム(ADAS)などの事業を手がけるボッシュは、事業拡大に伴って従業員が増加しており、さらにソフトウエア人材や人工知能(AI)に強い人材の採用を増やす計画。ボッシュはリモートワークを積極的に導入するなど、柔軟な働き方を採用するが、社員同士が対面でコミュニケーションすることも重視し、施設の新設を決めた。新社屋は区民文化センターと併設するため、従業員と地域住民が交流して、新たな発想が生まれることなども期待する。

自動車業界が大きく変革する中、部品メーカーは研究開発力強化やパートナーとの連携が生き残りを左右する。社内外の関係を円滑にして活性化するには、リモートワークが定着する中でもリアルでのコミュニケーションが必要との見方は強い。本社移転で従業員が退職するリスクはあるものの、東京以外にある研究開発拠点や製造拠点に本社機能を移して、部門間の壁を取り払い、オープンイノベーションも推進することで、自動車新時代を生き抜こうとしている。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞8月16日掲載