2022年8月24日
進化続けるヘッドランプ 自動運転に対応、コミュニケーション機能も
これまで道を明るく照らしドライバーだけではなく、歩行者や自転車利用者などの安全確保に寄与してきたヘッドランプ。先進運転支援システム(ADAS)や自動運転技術が進展する中では従来にない役割も求められており、高度化する自動車に合わせてヘッドランプの進化は今後も続く。
ヘッドランプが登場したのは1909年のこと。それから100年以上もかけて進化を続けてきた。ヘッドランプの進化の歴史は光源開発の歴史でもあり、自動車初期のヘッドランプにはアセチレンガスなどが採用されていた。
その後、39年に米国で登場したのがシールドビーム。光源には白熱球を使っていた。シールドビーム自体が発光体、いわゆる電球となっているため、現在のようにバルブが切れたらバルブのみを交換することができず、ユニットをまるごと交換する必要があった。
80年代以降に使われ始めたのがハロゲンヘッドランプとなる。それまで主流だったシールドビームや白熱バルブと比べ、より明るく長寿命になっているのが特徴だ。ハロゲンランプは糸状のタングステンで作られる「フィラメント」に電気を流し、発熱する際に発せられる光を光源として利用する原理。
発光管内部で起こる化学的な反応であるハロゲンサイクルによって明るさが維持され、電球内にハロゲンガスを高圧封入することで長寿命化を実現している。必要十分な光量が得られ、かつコスト競争力も持つことから現在も使われている。
ハロゲンバルブの2倍の明るさ、2~3倍の寿命を持つのが、95年に登場したディスチャージヘッドランプ(HID)だ。キセノンヘッドランプとも呼ばれるこの光源はフィラメントを持たないのが特徴。アーク放電によって光源を得る構造のヘッドランプで、消費電力も約3分の2で済む。
そして現在、主流となりつつあるのがLEDヘッドランプ。LEDは明るさと長寿命、低消費電力、低発熱を兼ね備えた光源で、2007年に小糸製作所が世界で初めて生産、販売を開始。トヨタ自動車の「レクサスLS600h」に採用された。
LEDヘッドランプの次の一手と期待されているのがレーザーヘッドランプとなる。より遠方を照射する特性に優れており、HIDでは100㍍先、LEDでは300㍍先のところを、レーザーでは600㍍先を照射することが可能になる。
コストは高くなるものの、すでに欧州メーカーが実用化。BMWは7、8シリーズや「i8」などに設定。アウディは14年のル・マン24時間レースを制したレーシングマシン「Audi R18 e―tron クワトロ」での実証実験を経て、同年に99台限定で発売した「R8LMX」に採用した。レーザーヘッドランプについては、日本のランプメーカーも開発を続けている状況だ。
ヘッドランプの進化は明るさの追求だけにとどまらず、さらなる視認性の向上、ADASや自動運転にも対応した技術開発が続けられている。
視認性向上では、「ADB(アダプティブドライビングビーム)」の採用が進んでいる。より遠方を照らせるハイビーム(走行用前照灯)の配光パターンを自動制御し、先行車や対向車、歩行者にまぶしさを与えることなく、常にハイビームでの走行を可能にする機能で、ランプメーカー各社がLEDヘッドランプとともに搭載の拡大を進めている。
配光パターンを決める手法はランプメーカーが独自技術を展開しており、小糸製作所はディスク型のミラーを高速回転させる「ブレードスキャン」で照射エリアの数や位置、幅をきめ細かく制御。スタンレー電気は液晶デバイス(LCD)を利用して、細かく分割した高解像度な光を作り出している。
仏ヴァレオグループの市光工業は、数万ピクセルに分割された照射範囲一つ一つを個別に制御する「HDライティング」を開発。ハイビームでは、対向車や先行車を照らす範囲を必要最低限に遮光することで、幻惑を防ぎながら、従来のハイビーム時と同等の光量を保ち運転することが可能となる。一方、ロービームでは、路面に線や記号を照射してドライバーにレーンガイドやナビゲーションといった情報を表示、運転を支援する。
また、ヘッドランプそのものではないが、車両周辺の歩行者やバイク、自転車などに車の動きを伝えるプロジェクション技術「ニアフィールドプロジェクション」の開発も続けている。
自動運転を見据えた技術開発も進んでいる。ヘッドランプの光を活用し、路面に自車が進む方向を示す図柄を投映するなどのコミュニケーションランプ機能はこの一環。自動運転車の周囲にいる車両や歩行者などに注意喚起を行うだけでなく、車と歩行者との意思疎通を可能にすることで、安全・安心な自動運転社会の実現に「光」で貢献する。
カテゴリー | 白書・意見書・刊行物 |
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対象者 | 一般,自動車業界 |
日刊自動車新聞8月1日掲載