会員向けクルマ
biz

INFORMATIONクルマの情報館

自動車産業インフォメーション

2022年6月28日

ウクライナ侵攻から4カ月 地政学リスクへ対応力問われる自動車メーカー

ロシアが2月24日にウクライナに軍事侵攻してから4カ月が経過した。自動車メーカーのロシア事業は停止状態が続いており、いまだ再開のめどが立たない。新型コロナウイルスによる経済の混乱が続く中、長期化する戦争や経済制裁は世界経済をさらに不安定化させている。世界中に拠点を構える自動車メーカーは、地政学的リスクへの目配りを一段と求められる状況だ。

ロシアに工場を持つトヨタ自動車、日産自動車、三菱自動車、マツダ、いすゞ自動車は、全社がロシアでの生産活動を停止しており、各社とも現時点で再開時期を示せないでいる。「事業としてどうしていくか判断がつかない」(三菱自・加藤隆雄社長)、「動向を注視しながら適切な対応を取っていくとしか言えない」(日産・内田誠社長)など、先行きが見通せない状況だ。

日本政府は600万円超の乗用車に続き、17日からは普通トラックのロシアへの輸出も禁止し、経済制裁による自動車産業への影響は広がっている。

ウクライナ侵攻が引き金となり、グローバルで地政学的な緊張感が高まっている。トヨタが15日に開いた定時株主総会では、株主から中国による台湾進攻の懸念に伴うリスク対応について質問があった。宮崎洋一アジア本部長は、「各地域の責任者との連携を密にし、変化への反応スピードを上げるしかない」と述べた。

国家間の対立のみならず、内部紛争も自動車産業のリスクとして横たわる。軍によるクーデターが発生したミャンマーでは、市場シェアの半分以上を握るスズキが完成車工場の稼働を昨年2月から11月まで停止した。従業員の生活維持のため生産は再開したが、稼働率は極めて低い状況が続いている。9月に稼働する予定だった新工場の建設も停止したままだ。

ミャンマーではトヨタも「ハイラックス」のセミノックダウン(SKD)生産を昨年2月に開始する予定だったが、いまだ操業開始には至っていない。完成車組み立て工場を新設する予定の三菱自も事実上、計画を凍結している状態だ。

欧米に足並みをそろえた日本政府のロシアへの経済制裁は、一方で日中関係に与える影響も不安視されている。中国では21年度にトヨタ、日産、ホンダ、三菱自、マツダの5社合計で480万台余りを生産し、世界生産に占める中国の割合はホンダが39・1%、日産が38・9%、トヨタが19・9%など上昇傾向にある。

世界の新車市場の3割を占める中国への依存度は高まっており、ロシアへの経済制裁をきっかけに日中関係が悪化すれば、その分、受ける影響は大きくなる。

グローバル産業である自動車は世界中のあらゆるリスクにさらされている。サプライチェーン(部品供給網)の混乱や半導体不足による生産の制約も長期化しており、部品メーカーへの悪影響も懸念される。経営環境が不安定さを増す中で、いかに持続可能な事業体制を構築していくか、その対応力が自動車メーカーに問われている。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞6月25日掲載