2021年3月26日
「引っ越し難民」問題、変化の兆し 異動自粛や地元志向で
新型コロナウイルス感染症の影響で「引っ越し難民」の問題に変化が起きている。国土交通省は例年、3、4月にピークを迎える運送業者の引っ越し業務の集中を解消するため、民間企業に人事異動の時期分散を呼びかけてきた。
しかし今年は、コロナ禍に伴う政府の〝移動自粛要請〟などを受けて、異動を見合わせる企業があるほか、学生が地元で進学・就職を希望する〝地元志向〟が強まった。
こうしたことから、すでに今年1月の段階で引っ越し件数が減少、料金が下落した。ただ、緊急事態宣言の解除後に需要が盛り返し〝難民〟が生じるとの見方があり、運送各社は状況を注視している。
総務省統計局がまとめた住民基本台帳人口移動報告によると、21年1月の「市区町村間移動者数」は前年同月比3・5%減の32万671人だった。20年1~12月は前年比2・7%減だったが、今年1月はこれを上回る減少率となり、移動を控える傾向の強まった様子が浮かび上がった。
企業の独自調査でも、移動を控える様子が示された。引っ越し比較サービスのエイチーム引越し侍(渡邊竜一社長、名古屋市中村区)が20年12月~21年1月に引っ越し業者137社に対し行った調査で約7割が「依頼数の減少、料金の下落があった」と回答した。
料金相場(21年1月下旬、15㌔㍍未満)は前年同期と比べ「単身」で1500円、「家族」で8千円安くなった。
さらに依頼件数について日本通運が「3月以前は例年よりも受注が少ない」とした。ヤマトホールディングスも減少しているという。
引っ越し依頼の減少は、まず異動時期をずらすなど「コロナ禍に配慮して人事を決定する動きが企業間に広がったため」という声が挙がる。引っ越し侍が同社の主要顧客19社を対象に行った調査では、半数以上が「転勤にコロナの影響があった」と答えた。最も多かったのが「時期の変更」、次いで「年間転勤数の減少」だった。
人が〝密〟になりやすく感染リスクが高まる懸念がある「都市部での生活を避けたい」という考えが広がったことも、引っ越し需要を減らす要因になった模様。
人材派遣を手掛ける学情が22年3月卒業(修了)予定の大学生・大学院生643名を対象に20年11、12月に実施したアンケートでは、新型コロナウイルス感染症の流行を受けて「地方での就職希望が強くなった」との回答が8割を超えた。「UIターン」や地方での就職を希望する学生は44・6%で20年6月の調査に対し17・8ポイント増加した。
今後の需要動向について、引っ越し侍の調査では運送業者の73%が「法人の転勤引っ越し依頼の減少」、69%が「引っ越し料金の下落」をそれぞれ予想し収益低下を心配する姿が垣間見えた。
その一方で、引っ越し侍は緊急事態宣言の終了後に引っ越し希望者が集中する可能性が考えられるとした。こうした動きをにらみ、大手運送業者が車両や機材の消毒を徹底するなど感染対策を強化するほか、引っ越し先の除菌・抗菌サービスを開始するなど、需要取り込みに動き出した。
カテゴリー | 白書・意見書・刊行物 |
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対象者 | 大学・専門学校,一般,自動車業界 |
日刊自動車新聞3月22日掲載