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2020年12月16日

化学各社、水素に商機 FCVや水素エンジン車普及へ熱視線

化学素材メーカーが、燃料電池車(FCV)や水素エンジン車の本格普及に熱視線を送っている。主に水素を貯蔵する燃料タンクへの素材供給を視野に入れたもので、炭素繊維複合材料(CFRP)を中心に高機能素材の採用拡大を見込む状況だ。

9日にはトヨタ自動車が新型FCV「ミライ」を発売。今後「普及のためには乗用車だけでなく商用車が重要で、乗用車についてはミライだけではなくさまざまなバリエーションを展開していく必要がある」との方針を示す。

車両価格の高さや水素ステーションの整備など課題は少なくないものの、化学各社はインフラ整備も含めた水素サプライチェーン全体でのビジネスチャンスの拡大に期待を寄せる。

「水素社会へのスピーディーな移行を期待している」。炭素繊維最大手の東レで自動車関連事業を手掛けるマーケティング企画室自動車材料戦略グループの追野英夫主幹はこう強調する。

同社は炭素繊維複合材料事業において、水素タンク(圧力容器)への素材提供を、空飛ぶ車や風力発電翼などとともに成長領域の1つと位置付けている。

足元では、新型コロナウイルス感染拡大の影響で減産が余儀なくされている民間航空機向けの生産設備を水素タンクなどに振り向けている状況だ。

水素タンクを最優先戦略用途と位置付け、開発リソースを投入する。今後、炭素繊維の高性能化とコスト削減、水素透過抑制ライナーなどの開発を進める。

クラレは気体遮断性を持つ高性能樹脂「エバール」に期待を寄せる。従来のプラスチックにはない高いガスバリア性を備えることから「将来的にはFCVの量産を見据え、水素タンクのバリア技術として活用していきたい」(渡邊哲哉経営企画室マーケティンググループ主管)と意気込む。

すでに基礎研究を始めており、「水素タンクが量産化される過程においては、軽量化とバリア性はトレードオフの関係にもある。この領域で提案するための準備を進めたい」考えだ。

帝人は、水素タンク向けの素材提供のみならず、水素を輸送するためのインフラ整備にもビジネスチャンスの創出を目論む。「水素を運ぶインフラの1つとしてパイプラインも必要になる。

アラミドや炭素繊維などを活用し、パイプラインインフラについて出る幕がある。エネルギー社会インフラへの貢献もできる」(小山俊也取締役常務執行役員)と見通す。

水素社会の実現には「自動車だけで議論しても成り立たない」(トヨタ自動車)。電源構成やエネルギー政策を含めた国家的議論はもとより、水素社会のものづくりを下支えする化学素材メーカーの製品、技術にも注目が集まりそうだ。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞12月10日掲載