2020年11月18日
日刊自連載「インパクト 今後の自動車産業PART2」(4)働き方が変わる
世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスを前に、企業は働き方の変革を迫られた。時差出勤や在宅勤務、ウェブ会議など、3密を避けて感染防止を徹底する勤務形態の導入が、新型コロナ以前から国が推進する働き方改革と相まって加速した。
一方で、人手に余裕がない中小・零細(小規模)企業の対応や自動車産業の強みでもある「すり合わせ」をどう保つかといった課題も浮き彫りになった。
大手は積極的に動く。トヨタ自動車は東京と名古屋、愛知の在宅勤務可能者について、緊急事態宣言前の3月26日から原則在宅に切り替えた。業務を円滑を遂行できるようネットワーク環境も整備。
社外からネットワークにアクセスできる従業員は2年前に5千人だったが、「現状は事務・技術系のほぼ全員に当たる4万5千人が同時に使える」(広報部)という。
ホンダは今月、通勤手当を出勤日数に応じた支給に見直すとともに在宅勤務手当を導入した。11月以降はオフィスへの出社理由を減らすために紙ベースだった取引先との契約書の電子化にも乗り出す。オフィススペースの縮小も検討する考えだ。
車体部品メーカーのジーテクトは、社員の出社率指標を「ジーテクトアラート」として定義。東京都の1週間平均の「実効再生産数」「新規感染者数」から出勤率を4段階に分けた。
最も感染率が低いゾーン0(テレワーク率50%)からゾーン3(ほぼ完全テレワーク)と規定。時差出勤や会議の開催の有無なども段階ごとに制限を設けた。基準を明示したことで、社員が対応しやすくなったという。
ただ、在宅勤務はメリットばかりではない。トヨタは「課題はコミュニケーションの質の担保や人材育成だ」(広報部)と分析する。
コンサルティングやソフト開発を担うライカシャトル(名古屋市東区)は、テレワーク中のパソコンのログ(稼働)データを集める仕組みも請け負うが、宗像良社長は「社員の方は以前まで監視されるのが嫌いだったが、最近は逆に放置されると不安がり『ログデータを取っていただけるのはありがい』という声も現場からいただく」と話す。
感染防止対策を「働き方改革を一段と推進するための好機」と位置付ける企業も少なくない。
9月に社内の技術者向けイベントを開いた豊田合成。今年は新型コロナ対策で来場者を絞る一方、技術の展示や説明を動画で記録し、国内外の関連部門へ配信した。
「これを機会に新しい展示会のやり方を考えていきたい」と石川卓取締役開発本部長。「全社的にもIT推進プロジェクトが立ち上がっているし、われわれ開発本部でもプロセス革新、IT導入と急きょ組織をつくって始めた。大きく変えていきたい」と意気込む。
明電舎は新しい日常へ向けて社員の裁量範囲を拡大する方針。社員自らが感染防止と経済活動を両立するニューノーマル(新常態)下の働き方に移行するためで、各部門における積極的な創意工夫を促す。
他社も「コロナ禍でテレワークが必要になり働き方が変わるきっかけになった」(KYB)、「働き方改革を含めて事業体質の強化に全社を挙げて取り組む」(JVCケンウッド)と口をそろえる。
◇
9月上旬、定期大会を終えた全トヨタ労働組合連合会の鶴岡光行会長は会見で新型コロナ対策に触れ「今は対面で食事すらできない。昼休みを分けているところもある。昔は一斉に休めたのでコミュニケーションがあったが、そういうところから一体感が薄れてしまうのではないか」と話した。
開発から量産まで、さまざまな企業や部門が協力して品質をつくり込む自動車産業は「リアルでの対面が重要なことに変わりはない」(ホンダの鈴木麻子人事・コーポレートガバナンス本部長)からだ。
サプライチェーン(供給網)まで含めた人々の働き方をどう変えるべきか。法制度や組織、商慣行にデジタル技術を組み合わせた改革は始まったばかりだ。
カテゴリー | 白書・意見書・刊行物 |
---|---|
対象者 | 自動車業界 |
日刊自動車新聞10月29日掲載