2020年9月3日
国連報告書 コロナ拡散でSDGs達成へ歩み後退
国連が掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」は、目標期限の2030年まで10年を切った。政府は昨年12月に策定したアクションプラン2020で、今後の10年を「行動の10年」と位置付けたが、その後に拡大したコロナ禍はSDGsの達成に大きな影響を与えた。
国連は最近の発表で「コロナ禍が貧困解消などで積み重ねてきた数十年の前進を後戻りさせている」と指摘。SDGsを復興政策の中心に据える必要が求められている。
国連広報センターは7月に発表した国連の最新報告書の中で、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が貧困、医療、教育に関する過去数十年の前進を後戻りさせていることを明らかにした。
報告書によると、新型コロナウイルス感染のパンデミック(世界的大流行)は、ほんのわずかな期間のうちに未曽有の危機を生むとともに、SDGsの達成に向けた前進により混乱をもたらし、世界の最も貧しい人々と最も脆弱な立場に置かれた人々に深刻な影響を及ぼした。
国連の「持続可能な開発目標(SDGs)報告2020」は、世界はこれまで、その進捗がSDGsの達成に向けた進捗が必ずしも十分でなかったものの、「妊産婦と子どもの健康促進」「電力へのアクセス拡大」「女性の政府への参画増大」などの分野では前進を遂げていたと評価している。
だが、こうした前進は食料不安の拡大や自然環境の悪化、幅広く根強い不平などの問題で相殺された上に、コロナ禍がもたらした未曽有の保健、経済、社会危機によって「人々の暮らしは脅威にさらされ、SDGsの達成をさらに困難なものにしている」と分析している。
国連がこの報告書を発表した同じ時期に、SDGsの達成度や進捗状況を国別にランキングした国際レポートが公表された。
持続可能な開発ソリューション・ネットワークと独ベルテルスマン財団がまとめた報告書によると、SDGsの達成度ランキングは、国連に加盟する166国の中で1位はスウェーデン、2位はデンマーク、3位はフィンランドとなり、北欧諸国がトップ3を占めた。日本は17位で昨年の15位から順位を下げた。
この報告書は、SDGsが目指す17の目標に設定された指標をもとに、100点満点で達成状況を順位づけたもの。
日本は17目標のうち「質の高い教育をみんなに」(目標4)、「産業と技術革新の基盤をつくろう」(目標9)、「平和と公正をすべての人に」(目標16)の3つで目標達成の評価を得たものの、「ジェンダー平等を実現しよう」(目標5)、「気候変動に具体的な対策を」(目標13)、「海の豊かさを守ろう」(目標14)、「陸の豊かさも守ろう」(目標15)、「パートナーシップで目標を達成しよう」(目標17)の5つは重要課題が残るという評価だった。
今年の報告書では、新型コロナウイルスに対する各国の対応も順位付けして掲載している。経済協力開発機構(OECD)に加盟する33か国を対象としたコロナ禍対応ランキングは1位が韓国。2位ラトビア、3位オーストラリア、4位リトアニア、5位エストニアで、日本は6位となった。
こうした状況下で国内の自動車メーカーは、相次いでSDGsを強化する動きを見せている。新型コロナウイルスで社会的な制限やサプライチェーンが寸断し、事業活動の停滞を迫られた経験がSDGsの重要性を再認識させる契機となった。
トヨタ自動車の豊田章男社長は5月の決算会見で「われわれの使命は、自分以外の幸せを願い、行動できるトヨタパーソンを育てることであり、SDGsに本気で取り組むことだ」と意思表示した。
トヨタのほかにも、5月以降の決算会見や株主総会で「個性と技術革新で脱炭素社会の実現を目指していく」(スバル・中村知美社長)、「ESGの取り組みを通じて積極的にその責任を果たしていく」(スズキ・鈴木俊宏社長)などと各社のトップがSDGsの取り組みを再度強化する考えを示した。
自動車各社はこれまでもSDGsの取り組みとして、二酸化炭素の排出量削減や交通事故の抑止など、それぞれにSDGsで掲げる目標の達成を目指してきた。ただ、今回のコロナ禍が持続可能性の重要性を強く意識させた。
これからも続くコロナ共生時代を見据え、足元の業績は低迷するものの地域社会が健全でなければ収束後の回復も遅れる。日本の雇用と経済を支える基幹産業の自動車業界は、短期的視点の収益確保と同時に持続可能な成長基盤の構築を急ごうとしている。
カテゴリー | 白書・意見書・刊行物 |
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対象者 | 一般,自動車業界 |
日刊自動車新聞8月31日掲載