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自動車産業インフォメーション

2020年9月1日

日刊自連載「流れを読む 国内マーケット展望」(6)リサイクル

自動車シュレッダーダスト(ASR)の処理や鉄スクラップ価格下落への対応など難しい課題を抱える自動車リサイクル業界にとって、収束の見通しが難しいコロナ禍は経営環境の先行き不透明感を一層強める逆風となっている。

自動車リサイクル団体や事業者は定例会議などをウェブ会議システムに変更したり、テレワークの導入やオフィスの分散化など感染予防対策を図りながら、働き方改革を加速している。

4、5月は外出自粛を要請した政府による緊急事態宣言の発令などで、事業者を取り巻く経営環境が厳しくなったことから、各リサイクル団体では会費の減免や会員向けのパーツ在庫共有システムの使用料を期間限定で無償化するなどの支援策を打ち出した。

ASRは、中国が2018年から環境対策の一環として、自動車スクラップなどの受け入れを段階的に規制。そのため、国内に滞留して一部の地域では処理に対応できないケースが発生している。輸送業界の人手不足による輸送コストの上昇も大きな課題になっている。

リサイクル事業者にとって収益源の一つである鉄スクラップの買い取り価格は近年、下落傾向が続く。業界関係者は「ここ2年で相場は4割ほど落ちた」と肩を落とす。

日刊市況通信社の調べによると、関東地区、中部地区、関西地区それぞれの鉄スクラップの平均価格は、18年1月が1㌧当たり3万6千~3万7200円だったが、20年1月は2万2700~2万3700円と大幅に下落。コロナ禍で2月から価格がさらに下落し、4月には今年最安値となる1㌧当たり1万8500~1万9700円を記録した。

リサイクル部品の供給元となる使用済み自動車(ELV)は、新車の販売台数と連動しており、新車販売台数の回復が遅れると業界への影響も大きくなる。外出自粛要請による自動車交通量の減少は、整備工場への入庫件数の低下につながり、ELVから生産されるリサイクルパーツのニーズを引き下げる要因となる。

自動車リサイクル促進センター(JARC、中村崇理事長)が発表した19年度のELVの発生台数は、前年度とほぼ同水準の336万3千台だった。一方で、ELV引き取り時の平均車齢は15・6年と9年連続上昇している。新型コロナの影響で、5月のELV発生台数は前年同月比15%減の23万2千台だった。

自動車の補修費用は車の高度化で上昇しており、費用を抑えられるリサイクル部品のニーズは年々高まっている。業界の主要団体では、一般消費者向けにEC(電子商取引)サイトと連携して販路の拡大と販売増に取り組んでいる。

環境意識の高まりや保証制度などを背景に中古部品に対する自動車ユーザーの意識も変化しており、今後はユーザー向けビジネスが収益力向上への重要な領域となりそうだ。

自動車リサイクル業界をサポートする取り組みでは、日本損害保険協会(広瀬伸一会長)が、秋に自動車リサイクル部品活用促進キャンペーンを行い、消費者にリサイクル部品のメリットを訴求。一部の損保会社ではリサイクル部品使用特約を設定し、補修の際にリサイクルパーツを使用することで保険料を割り引くなどして推奨している。

JARAの北島宗尚社長は今後の見通しについて、「われわれの業界は世間から2カ月ほど遅れて影響が出ている。(新型コロナの)感染症が再度広がった場合、年内はマイナス影響が残るのではないか」と懸念する。ウィズ/アフターコロナの時代を見据えて、関連団体と議論、連携を進めながら市場規模の維持・拡大に取り組んでいきたい考えだ。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞8月15日掲載