2020年6月17日
日刊自連載「コロナ・インパクト 自動車メーカーの決算を読む」(5)チャンス
世界規模で暮らしや仕事を一変させた新型コロナウイルス。リーマンショック後に生まれた「ニューノーマル(新常態)」を筆頭に「ウィズコロナ」「アフターコロナ」など、不可逆的な変化を示すキーワードが乱立する。決算会見でも言及が相次いだ。
■製品の多様化が進展するか
完成車メーカーより一足早い4月末に決算を公表したデンソー。
有馬浩二社長は新型コロナにより「一人ひとりの価値観が変わってくると思う」と述べ、「電動化がもっと加速する可能性であったり『安全・安心な空間が保証されていないと乗りたくない』と、公共機関より電動バイクで短距離移動する方が、快適というより安全だということが起こり得るかもしれない」と例示した。
実際、旅客輸送サービス業は激震に見舞われている。航空各社やバス・タクシー業は移動需要の蒸発に手の打ちようがない。
米ウーバーなどのライドシェアや相乗りサービスには車内感染リスクという逆風が吹き、スズキの鈴木俊宏社長は「今までの発想ではシェアリングは受け入れられなくなる」と話す。
ホンダの八郷隆弘社長は「今後は、今まで通りに戻るというより、都市への人口集中などいろいろな課題がある中で、そこを変えていこうというのが世界中で最優先項目となるのではないか」と分散型コミュニティーの広がりを予想した。
こうした動きと移動ニーズを組み合わせ、超小型モビリティ、パーソナルモビリティと呼ばれる領域のニーズがコロナ後に広がる可能性もある。
■世界情勢はより難しく
矢野経済研究所は4月から5月にかけ、大手・中堅企業の経営者らに「新型コロナ収束後の世界と企業経営」と題した調査を実施した(有効回答810票)。
世の中がどう変わるかを聞いたところ、94%が「社会のIT化が加速し、産業の新陳代謝が進む」と回答。49%が「自国第一主義の定着・強化」を予想した。
コロナ禍で一段と激しくなる米中貿易摩擦を筆頭とする自国第一主義は、代表的な国際商品であり、グローバルサプライチェーン(供給網)に支えられた自動車にとってリスク以外の何ものでもない。
政府が先月末に公表した「ものづくり白書」では、こうした国家の〝政策不確実性〟の高まりが経済活動に与える影響を懸念しつつも「今後も続く基本的なトレンドと見るべき」とし、国内製造業にサプライチェーンの見直しやデジタル革新の加速、先進・熟練の両面でものづくり人材の育成などを求めている。
東西冷戦が終結して30年あまり。日系を含む自動車各社は国際協調とグローバル経済の恩恵を受けて事業を拡大してきた。
しかし、自由貿易や温暖化阻止を目指す国際的な枠組みは停滞し、自国第一主義を筆頭とする〝分断〟が広がりつつある。新型コロナは、こうした世界情勢を改めて浮き彫りにしたともいえる。
トヨタ自動車の豊田章男社長は「地球環境も含め、人類がお互いに『ありがとう』と言い合える関係をつくっていく。私たちは今、大きなチャンスを与えられているのかもしれない」と語り、「そして、それはラストチャンスかもしれない」と付け加えた。
モビリティ(移動性)を通じて暮らしや経済を支える自動車産業。コロナ禍で生じた〝チャンス〟をどう事業活動に生かすかが各社に問われる。
カテゴリー | 白書・意見書・刊行物 |
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対象者 | 自動車業界 |
日刊自動車新聞6月5日掲載