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2020年6月11日

日刊自連載「コロナ・インパクト 自動車メーカーの決算を読む」(1)出口

上場自動車メーカー9社の2019年度決算が出そろった。年明けの中国から始まった新型コロナ禍は瞬く間に世界へと広がり、各社は「リーマンショックよりもはるかにインパクトは大きい」(トヨタ自動車の豊田章男社長)と口をそろえる。

一方でおぼろげながら収束の兆しも見え始め、各社は〝コロナ後〟のさまざまな変化もにらみながら事業活動の正常化を急ぐ。

今回の決算発表では「新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う影響を現時点において合理的に算定することが困難」(ホンダ)として来期業績予想の開示を見送るメーカーが続出した。

自動車業界では、過去にも東日本大震災に見舞われた10年度決算で、上場10社(当時)すべてが11年度見通しの開示を見送ったことがある。

ただ今回は、トヨタ自動車と日野自動車、いすゞ自動車が部分的ながら見通しを示した。

トヨタは、連結販売台数を前期比で約2割減となる700万台とした上で、5千億円の営業黒字を確保する。子会社の日野は販売目標を15万台に設定した上で「収益目線」を示した。

たとえ仮置きだとしても数字を出せば独り歩きするリスクはある。豊田社長は「社内でも議論があった」と前置きし「一つの基準を示すことが必要だと考えた。関係各社が何かしらの計画、準備ができるのではないか」と語った。

自動車産業ピラミッドの頂点に立つメーカーの考えが分からなければサプライヤーも計画の立てようがないからだ。

見通しを示した3社には共通項もある。リーマンショック時を上回る販売減を織り込んだ上で黒字を見込む点だ。リーマンや超円高、東日本大震災など幾多の試練を乗り越え、収益体質を強化してきた自負が見通しににじむ。

業績予想の開示を見送ったメーカーも、決算発表では幹部が個別に見通しを語った。

例えば中国。ホンダの倉石誠司副社長は「4月の販売は9割に回復し受注も好調だ」と述べ、政府による新エネルギー車(NEV)優遇延長など消費刺激策の手応えも示した。トヨタの中国販売も新型車効果などで4月は前年を上回った。

中国と並ぶ重点市場である北米について、トヨタの近健太執行役員は「もともと強い経済だし、政府の下支えもある。21年の早い段階で前年並みに戻るだろう」と語った。

ホンダも夏頃には需要が回復するとみる。マツダはいち早く在庫の圧縮に動き、コロナ収束後に値引き販売に陥らないよう手を打つ。

一方、中国や日本を除くアジアの見通しはやや厳しいようだ。三菱自動車の加藤隆雄CEO(最高経営責任者)は、ASEAN(東南アジア諸国連合)地域について「回復時期の具体的な算定は難しい」と語る。

いすゞはタイのピックアップトラック需要の回復を第3四半期以降とみる。昨年からの景気失速にコロナ禍が重なったインド市場について、スズキの鈴木修会長は2千拠点の販売店が再開したとしつつ「制限下において6月(の販売)は3分の1程度」と語った。

第2波、第3波の到来や米中摩擦、コロナショックを経験した消費者の行動変容など、事業環境を取り巻く不確定要素はなお多い。

しかし、各社は「未来の種まきに関してはアクセルを踏み続けたい」(トヨタの豊田社長)、「(次世代技術への投資を)少なくすることは今のところ考えていない」(ホンダの八郷隆弘社長)と強調する。

コロナ禍が収まってもCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)の進展や新興・異業種との競争が終わるわけではない。コロナショックを体質改善の原動力にすら変え、各社は持続可能な成長に向けアクセルを踏み込む。

 

 

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞6月1日掲載