2020年4月17日
自動車メーカー各社、生産停滞でも雇用維持 重い人件費も懸命の対応
国内の生産活動が停滞する中、自動車メーカー各社は雇用を維持する方針だ。足元の業績に人件費が重くのしかかるが、技術を持った従業員を失えば、新型コロナウイルス収束後の立ち上がりが鈍くなるためだ。ただ、事態が長引けば、経営基盤は脆弱化し、雇用の維持は難しくなる。自動車メーカーと比べると規模の小さいサプライヤーや販売会社の雇用不安も懸念される。雇用維持に向けた踏ん張り時がしばらく続きそうだ。
「何としても雇用を守っていくことが(経済の)崩壊を食い止めるための大きな力になる」。10日に自動車工業4団体が実施した共同会見で日本自動車工業会の豊田章男会長は強調した。その言葉どおり、自動車メーカー各社は現在、国内拠点で雇用の維持に努めている。
トヨタ自動車が生産停止中に労働力を工場の保守点検やカイゼン活動などに生かすほか、ホンダは有給休暇の取得を奨励。一時帰休を実施するマツダや日産自動車、ダイハツ工業なども休業時に給料の大部分を支給する方針だ。豊田会長は「(事態が収束しても)ものづくりの力を習得した人材、それを活用できる仕事場がなければ、経済復興に時間がかかる」と指摘し、自動車総連の金子晃浩事務局長は「経営側も雇用維持を強く意識してくれている」と認識を示す。
自動車メーカー各社の脳裏にはリーマン・ショック時の苦い経験も残る。自動車を含む製造業各社は当時、世界的な需要後退とそれに伴った減産で非正規従業員の雇い止めを迫られた。派遣労働者を利用する企業が派遣契約を期間途中で解除する「派遣切り」が社会問題となり、自動車メーカーも世間から非難を浴びた。ある自動車メーカーの担当者は「ブランドイメージを守るためにも雇用維持に努める必要がある」という。
雇用への不安は自動車業界全体に広がる。日本自動車工業会によると、自動車関連の就業者は546万人で日本全体の1割を占める。日本製鉄は自動車用鉄鋼需要の減少に対応し、粗鋼生産量の1割強を減産するのに伴って、従業員約3万人を対象とする一時帰休を実施することを決定。休業手当には国の雇用調整助成金制度を活用する方針だが、それでも人件費の負担は小さくない。
ある東日本の販売店首脳は「もともと人手不足だったため、過剰感はなかったが、これ以上、需要が冷え込めば人員の適正化も考えなければいけないかもしれない」と危機感を募らせる。自動車業界は裾野が広く、日本経済に与える影響が大きいだけに業界各社への負担軽減策や収束後の需要喚起策といった政府の支援も求められそうだ。
カテゴリー | 白書・意見書・刊行物 |
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対象者 | 自動車業界 |
日刊自動車新聞4月14日掲載