2020年3月9日
日刊自連載「サポカー補助金始動」 (下)高齢者の買い替え促進
「高齢運転者の事故対策は喫緊の課題。放っておけば買い替えが進むといった悠長なことを言っている場合ではない」(経済産業省自動車課)―。交通死亡事故件数は減少傾向にある一方、高齢ドライバーによる重大事故が社会問題化している。補助金の対象を65歳以上のシニア層に絞った背景には、車の保有年数が長くなりがちな高齢者の買い替えサイクルを早め、安全機能を搭載した車への乗り替えを促進する狙いがある。
最近よく耳にするようになったサポカー(安全運転サポート車)が定義されたのは2017年3月。75歳以上の高齢運転者による死亡事故の要因として操作ミスが最も多かったことなどから、経産省や国土交通省など関係省庁の副大臣級会合で、サポカーのコンセプトを定めた。緊急自動ブレーキなどを搭載した車にサポカーという愛称をつけ、官民挙げた普及啓発活動を推進してきた。
メーカー側の技術開発も進み、現在では緊急自動ブレーキの新車乗用車への搭載率は8割に上る。さらに、買い替え促進による国内市場の活性化することを目的に、19年度与党税制改正大綱に、車体課税の見直しを盛り込むなど必要な施策を打ち「新車に買い替えれば自然とサポカーの普及率が増えていく」(同)好循環な環境を整えてきた。
ただ、高齢になるにつれて車を買い替える頻度は減る傾向にある。経産省によると、65歳以上の車の平均保有年数は10年と、64歳以下の7・7年に比べ長い。緊急自動ブレーキの搭載車数は増えているものの「高齢の方に所有してほしいサポカーは若者の所有率が多く偏在化している」という状況にある。そうした中、19年4月に東京都豊島区で高齢者が運転する車に母子が巻き込まれる事故が発生し社会問題化。加齢による運転ミスを食い止めるため、高齢者にサポカーへの乗り替えを後押しし「こうした偏在化を少し是正する」ことを狙いサポカーの購入支援に踏み切った。
19年版「交通安全白書」では、18年中に75歳以上の高齢運転者による交通死亡事故発生率は、74歳以下の年齢層と比べて約2・4倍に増加したと指摘している。原因別でみると、操作ミスによる事故が最も多く、ブレーキとアクセルの踏み間違いが74歳以下の1・1%に対して75歳以上が5・4%だった。
75歳を境目に事故が発生する確率が変わることから「75歳までに安全な車に乗ってもらうためには、平均保有年数が10年とされる65歳までに買い替えてもらわないと」(同)と、補助金の対象年齢を65歳以上限定に設定した。
サポカーに乗ったからといって交通事故を100%防ぐことができる保証はない。ただ「高齢の方にサポカーをたくさん乗ってもらうことで全体として事故数の減少や深刻度が緩和されることは間違いない」と、サポカーの事故抑止効果に期待をかける。
政府としては、サポカー補助金を通じた買い替えサイクルの短縮による量産効果も狙う。今回は高齢者に限った時限措置であっても、サポカーの普及に伴う量産効果で幅広い世代のユーザーがサポカーを利用できる環境づくりへとつなげていく考えだ。
カテゴリー | 白書・意見書・刊行物 |
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対象者 | 一般,自動車業界 |
日刊自動車新聞3月5日掲載