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2019年12月16日

日刊自連載「PwC「デジタル自動車レポート2019」」 ㊤

現在、自動車業界はテクノロジーへの投資が膨大化し、従来型の事業モデルで得られる収益では賄いきれなくなっている。新たな事業モデルの探索や新技術の普及時期なども注目される中、PwCネットワークの戦略コンサルティングチームが「デジタル自動車レポート2019」を発表した。今後の市場予測やCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)時代に自動車メーカー、サプライヤーが行うべき方策などをまとめた。

自動車保有台数は、欧州では2025年までに2億7300万台でピークを迎えるが、中国と米国では引き続き成長し続けるとみている。欧州での減少はカーシェアリング、ライドシェアリングの増加が原因。これに対して米国と中国はシェアリングの普及が遅れると予想しており、モビリティ需要全体の成長率と同等に伸びるとしている。中国に関しては、18年の1億9700万台から、30年には3億6900万台になると予想している。

一方、規制と技術革新によって車両当たりの部品コストが20~40%増える可能性があると指摘する。高度な先進運転支援システム(ADAS)の導入や内燃機関車からバッテリー式電気自動車(BEV)への移行コストなどだ。このため黒字化の実現に向けては、30年までに技術コストを削減するため、ADASコストを65~75%削減するなどの必要があるとしている。

また、新技術がユーザーに浸透するには、インフラが障壁ともなり得るとしている。コネクテッドは規制・安全基準によって義務付けられているが、コネクテッドサービスへの消費者の支払い意志額が減少していることやサービスの更新率の低さ、これを維持するためのGPS(衛星測位システム)の代替物や第5世代移動通信システム(5G)の活用といった事業モデル上の課題がある。また、電動化についても高速充電拠点や水素補給ネットワークを高い稼働率で維持できるかといった課題がある。充電インフラを技術的・地理的に拡張するために必要な規制はまだ整っていない。開発費の高騰で売り上げに対する利益率が低いなど、企業の課題もある。

さらに、自動運転では走行区域の設定や歩行者、自転車といった従来の交通と併用して稼働するための規制などが必要になる。企業視点では開発コスト低減のため、他社との協働の必要がある。経済面の課題が自動運転システムの世界的な発展を阻害する可能性もある。シェアリングでは、タクシーなどの他の輸送手段との併用や、ユーザー認証を行う技術の実現性などが課題。ただ、実質的な利益を生み出すためには資産稼働率が不十分であり、ライドヘイリング(自動車による送迎サービス)事業者はいまだに黒字化未達成で、カーシェアリング事業者では不採算都市からはすでに撤退しているなど、今後の業界の動きに注目が集まっている。

モビリティ市場は欧州、米国、中国で30年までに1兆2千億㌦に達し、年平均成長率は約20~30%で拡大すると予測している。ただ、売り上げの構成としてシェアリング事業などの割合が増えるとされ、新車販売の割合が減少する。MaaS(サービスとしてのモビリティ)によって車両の稼働率が上がり、車両の日常生活による摩耗や損傷が増えるため部品の売り上げは増えるが、車両販売の割合は低下する。

このほかにも、自動運転機能により車両の技術的複雑性が高まり、新たな技術系サプライヤーが提供する価値の割合が高まる半面、交通事故が減るため保険とアフターサービスの需要が減少する。電動化が進めば、内燃機関車のパワートレーンと比べて複雑性がなくなるなど、従来型サプライヤーは売り上げ減少につながる。さらに、MaaSのフリート所有者が強い交渉力を持つようになるなど、自動車産業の大きな転換が予想されるとしている。

日刊自動車新聞12月12日掲載

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
主催者

PwCコンサルティング合同会社

対象者 自動車業界