2019年11月3日
日刊自連載「ニューワールド デジタル革命で変わる自動車産業」保適が切れない指定工場/高度化対応できなければ退場に/9
次世代整備対応は待ったなし。指定工場であり続けるためには新たな認証取得が不可欠だ
国土交通省が従来の分解整備の範囲を拡大し、名称を変更した「特定整備」が、整備業界を揺り動かしている。このほど示した中間とりまとめ(案)「特定整備制度の方向性」では、新たに追加する作業と認証要件を公表。自動運行装置の取り外しや作業に影響を及ぼす整備、または自動ブレーキなど運転支援装置の校正作業(エーミング、キャリブレーション)を含めて「電子制御装置整備」と規定した。センサーが装着されたフロントバンパーなどの脱着、ガラス交換も対象作業と定めた。進化する車両技術に合わせ法制度の見直しも急ぎ足で進む。様子見の事業者が多い整備業界だが、隣の事業者を見ている間にも破壊的創造は進む。
「細かい運用規定はこれからだが、多様な整備工場に対応する制度設計にしていただいた」。日本自動車整備振興会連合会の木場宣行専務理事は、中間とりまとめについてこう評価する。認証基準をクリアするため多少の努力も必要になると見ているが、「クルマが進化しているので対応するしかない。可能ならばすべての工場に対応してほしい」と訴える。
業界内には「思ったよりもハードルは低かった」と胸をなで下ろす声もある。フレーム修正機やホイールアライメントテスターといった機器が設備要件に入らず、面積要件も既存の認証基準をわずかに超えるものだったからだ。 認証要件が厳しすぎると既存の整備事業者が取得できない。低すぎると、次世代整備に関する技術や知識を持たない事業者に認証を与えてしまうリスクがある。国としては次世代自動車の安全を広く担保するために必要な最低ラインを定めたと言える。
国は電子制御装置整備の認証に当たり、新たな認証だけを取得するケース、分解整備とともに取得するケース、作業は外注するケースなどと複数のパターンを想定し、整備事業者が既存のビジネスを継続するための枠組みも整えた。
ただ「裏を返せば、対応できない事業者は退場してもらいますということ。車載式故障診断装置(OBD)車検の導入も控えており、高度化対応をできないところは縮小あるのみ」と指摘する車体整備業界団体幹部もいる。
事実、都内で整備工場を営む鯉沼誠輪社の鯉沼誠一社長は「作業場が狭小である23区内の整備事業所は対応が厳しい。実際に都内で廃業したところが出ている」と明かす。
一方、新たなビジネスチャンスを創造する動きも出始めている。整備工場に補修部品などを卸す地域の大手部品商などは、サポート活動の一環としてエーミング代行サービスに乗り出した。
BSサミット事業協同組合も新サービスを始める。入出庫時の故障診断記録やエーミングの作業証明など4種類の帳票を発行し、組合員による適正な車体整備作業を証明するエビデンスサービス。磯部君男理事長は「認証要件は最低の基準。我々は独自の付加価値を付けたサービスを展開する」と意気込む。
整備業界は様子見の事業者が少なくないだけに「まだ4年間もあるから大丈夫」と高をくくっている状況かもしれない。確かに中間とりまとめでは4年間の経過措置が設けられたが、あくまで対象になるのは「現に電子制御装置整備作業に相当する事業を経営している」工場だけだ。
現時点でエーミングを行ったことがない工場については、改正道路運送車両法が施行される来春以降、新たな認証制度を取得しなければならない。さもなくば指定整備工場においては保安基準適合証(保適)も交付できなくなる。すなわち、車検業務ができなくなるのだ。
車検という官製需要に守られてきた整備業界。ただ次世代自動車については指定工場すら保適が切れない日が目前に迫っている。ディスラプション(破壊的創造)は進行中だ。=第2部おわり=
日刊自動車新聞10月31日掲載
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主催者 | 日刊自動車新聞社まとめ |
対象者 | 自動車業界 |