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2022年9月26日

CSP大賞トップ対談 人知れず業界支える人たちにスポットライトを

自動車産業は、素材、開発、製造、販売、運輸、整備、関連サービスと多岐にわたり、そこに従事する550万人が支えている。日本自動車会議所は昨年、日頃の地道な取り組みを認識し、感謝することを目的に「クルマ・社会・パートナーシップ大賞」を創設した。第2回の募集開始を前に、改めて賞の意義や今後の展望について、内山田竹志会長と選考委員長を務める鎌田実東京大学名誉教授に聞いた。(聞き手 花井真紀子日刊自動車新聞社取締役編集本部長)

花井「内山田会長は、第1回表彰で創設の思いを、どのようなところで実現できたと思いますか」

内山田会長「昨年、創立75周年を迎え、記念事業を検討する中で550万人もの自動車産業に携わる人たちの日頃の頑張りへの感謝と、その努力へスポットライトを当てたいという思いからこの賞がスタートしました。新技術や業務改善など、事業と直結した分野での表彰制度はありますが、この賞では事業には直結しなくても業界を支えている活動や地域のモビリティ環境の改善に取り組むユーザーにスポットを当てたい、と思っていました。ただし、1回目であるために、どういうものが表彰の対象になるのか、応募する側が分からないのではないかという不安があり、次年度以降の選考基準を明確化する上でも、ある程度の応募数を望んでいました。幸い、創立年数と同じ75件もの応募があり、かつ幅広い分野の取り組みが送られてきました。多彩な取り組みを検証することができたことが良かったと思います」

花井「鎌田先生は、どういった点に賛同されましたか」

鎌田委員長「日本自動車会議所がこういう賞を創設するという話を聞いて、非常に良い取り組みであると思いました。初めてということで、応募する方も選ぶ方も何を基準にしたら良いのかがすごく難しいですが、内山田会長から、創設への思いについての言葉をもらい、それにかなうような取り組みを選べば良いと思いました。自分が選考委員長を務めるとは思っておらず、重圧でしたが、多様な分野の専門家が選考委員として集まったため、心強い気持ちで選考に臨むことができました」

花井「選考委員はそれぞれ見識もあり、個性の強さを感じましたが、とても良い雰囲気の中、多様な視点から見ることができたと思います」

鎌田委員長「こういった選考はこれまでも経験していましたが、議論が深まるにつれて意見がぶつかることが少なくありません。そのため、選考会後では、怒った顔になるから集合写真は事前に撮りましょうといったエピソードを表彰式でも紹介しましたが、委員全体としては満足できる結果となり、ホッとしました」

内山田会長「創設1回目ということで、選考基準が確立されておらず、委員それぞれの価値観をすり合わせるのに委員長は苦労されたと思います」

鎌田委員長「同じジャンルであれば優劣はつけやすいですが、ジャンルが異なる上にそれぞれ良さがある。いうなればステーキを食べるかメロンを食べるかというようなものでした」

花井「第2回にあたって、改めて賞の意義についてどのように感じますか」

鎌田委員長「自動車産業に関わる人やそれを使用するユーザーの存在を考えると、車は社会の中で重要なインフラであると改めて思います。取り組みについては、インターネットで掲載されるような知名度がなくても、称賛できる素晴らしいものを第1回では選ぶことができました。第2回やそれ以降も、これまで世間の目に触れる機会がなかった取り組みをたくさん応募してもらえれば良いと思います」

花井「スポットを当てるという意味で、表彰式は重要なイベントだと思います。第1回は、新型コロナウイルスの影響がありながらも、対策を講じつつ表彰式を開催することができました。式の中で内山田会長は、受賞者に囲まれていた場面もありましたが、表彰式をどのように感じましたか。また、受賞者とどのような話をされましたか」

内山田会長「人数制限など新型コロナウイルス対策を行ったこともあり、あまり会話の機会をつくることができませんでしたが、大賞を受賞した茨城県境町の皆さんとは、東京オリンピック・パラリンピックに使用されたトヨタ自動車の『eパレット』をはじめとした自動車メーカーが考える次世代モビリティについて詳しく話を聞きたいと言われ、後日意見交換を行いました。表彰式で流れた取り組みのビデオを見ると、行政や関係者のみならず、住民が個人の土地を駐車スペースとして提供する事例も見られたほか、ライブ映像で住民の方々が登場するなど、ユーザーとプロジェクト関係者と行政が三位一体となって取り組んでいると感じました。自分たちでこの取り組みを育てる、あるいは成功させるという意識を持っていることが住民の話から感じられました」

「ただ表彰するだけでなく、その取り組みがきっかけとなってそれが全国に広がる、あるいは改良されることが大切だと思っています。実際に広がっている事例もあります。特別賞を受賞した第一交通産業グループ(福岡県北九州市)が式後に、特別賞受賞を告知したコマーシャル(CM)を流したそうです。その結果、地域で評判となり、同社の『お墓参りサポートサービス』が今夏は盛況であったようです。他にも、日本カーシェアリング協会(宮城県石巻市)が、災害の時に車を貸し出す取り組みをもっと広げたいと思い、授賞式後に日本自動車連盟(JAF)を訪問して意見交換し、クラウドファンディングを立ち上げるなど、他者と協力しながら規模を拡大するケースも現れています。このような事例が広まれば、うちもやろう、改良し、地域に合わせた新しい取り組みをやろう、といった動きが起こるのではないかと考えています」

花井「良い取り組みに賛同する仲間がすぐに出てくるのは素晴らしいことですね」

内山田会長「賞について、自動車産業に関わる企業へは認知がある程度は広まっていると思いますが、あとは一般のユーザーにどう浸透させていくかが課題です。会議所やJAFがユーザーとつながるほか、受賞者がインフルエンサーとして活動を広げてもらうなど、工夫を行う必要があると考えています」

鎌田委員長「今回大賞を受賞した境町のような自治体は、どうしても参加代表は町長になってしまいます。新しいモビリティを積極的に受け入れる町民を表彰したいという意味では現地でくす玉を割るなど歓迎して頂き、とても良かったですが、オンラインで参加している人にもう少しうまく受賞の喜びを語ってもらえるようにできれば良かったと思います」

花井「今月から第2回の応募を開始しますが、内山田会長はこの賞がどのように成長していってほしいですか」

内山田会長「応募される活動の枠がより広がってほしいと考えています。ユーザーや企業の取り組みは第1回で応募されたもの以上に、幅広くあると思っているので、それをどう掘り起こすか。一番大事なのはどういう賞があるのかを応募する人に分かりやすくすること。応募の幅を広げることと応募者の理解を深めることを、どう両立するのかが課題だと考えています。また、選考から漏れた応募作品の生かし方について、何らかの形で周知させるような仕組みを構築することについても考えていきたいです」

花井「前回受賞しなかったとしても、続けてチャレンジしてもらえるような雰囲気づくりも大切ではないでしょうか。この賞は優劣をつけるものではなく、皆さんに良い取り組みを知ってもらうことが目的の賞ですので、いい方法があれば良いと思います」

鎌田委員長「受賞しなかったとしても活動を継続して、さらに進化したものを再度応募してもらうのは歓迎したいと思います。また、次回からの取り組みという点で言えば、初めての開催のため、どのような取り組みが応募されてくるのか予想がつかず、企業に対して参加の働きかけができなかった部分があります。例えば、バスと言えば、昨年の東京オリンピック・パラリンピックで全国から2千台が集まり、大きな事故を起こすことなく関係者の輸送などを行っていました。個人的には、その2千人のドライバーを表彰したいと思いました。そういったことから、応募がなかったとしても、こちらから応募できないか働きかける工夫を検討したいと思います」

花井「地道な取り組みであればあるほど、当たり前に行われる傾向があり、華々しい賞に応募するほどのものではないと謙遜している部分もあると思います。そういった取り組みに対し参加を呼び掛けるにはどういったメッセージを発信する必要があるでしょうか」

内山田会長「各企業、団体にも、それらの活動にスポットライトが当たることを知ってもらう必要があります。会議所からの発信やマスメディアなどの協力を得ながら、情報発信していきたいと思います」

花井「賞に応募すること自体が世の中のためになる、といった位置付けになれば良いですね。2回目の募集選考について鎌田先生はどのように考えていますか」

鎌田委員長「内山田会長がおっしゃるように、前回より幅広い取り組みが出てきてくれれば良いと思います。数が増えれば選考側としては大変な部分もありますが、応募書類を読んで素晴らしい取り組みに感動するなど楽しい面もあるので頑張りたいと思います」

花井「内山田会長はこれまでの経験から、どのような賞が良い賞だと思いますか」

内山田会長「縁の下の力持ち、という言葉がありますが、日ごろ日の目を見ない活動によってわれわれの生活が成り立っているということをお互いに知ることがこの賞で実現できたら良いと思います。サイレントマジョリティーと呼ばれる、黙々と自分の役割をこなす人々がいてこそ社会が回っている。先ほどのドライバーは典型的な例だと思います。そういった人たちにどれだけ感謝しているのか。当たり前になってしまっている部分もあります。今回のコロナ禍を通じて、そういった部分をわれわれは認識させられました。エッセンシャルワーカーといった人々がいないと社会が回らないように、自動車産業にもそういう存在があるのではないかと思っていたので、それに対する認識と感謝が広がると良いと思います」

花井「自動車産業のみならず日本の社会、経済の活性化にこの賞が役立てば良いですね」

鎌田委員長「モビリティの重要性を感じるエピソードとして、東日本大震災の復興支援での事例があります。震災後、高台など不便な場所に建てられた仮設住宅の住民は、徒歩で買い物に行っていました。大量の荷物を運べないために、日々の食事がパンなどの簡単なものにならざるを得ない状況がありました。そこで東京大学のチームがプロジェクトとして、移動用のモビリティを用意したところ、肉や魚を購入し自宅で調理するようになり、その結果、大量に食材を購入し、近隣住民へのお裾分けをするなど、生活の中でコミュニケーションが生まれるようになったほか、外出するために服装にも気を配るようになりました。モビリティを確保することが生活の張り合いを生むことを感じた事例です」

花井「10年、20年後にこの賞がどうなっていてほしいですか。続けていく上で大切なことは何でしょうか」

内山田会長「一つは、人知れず頑張っている人に対し、社会全体が認識して感謝する雰囲気を生むようになっていてほしいです。もう一つは、受賞対象となった取り組みが、地域を超えて全国へ広がるなど、活動そのものの規模が大きくなっていってほしいと思っています」

鎌田委員長「モビリティは社会にとって重要な存在です。一方で、交通事故の問題やカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)といった大きな社会課題を抱えており、これをどう解決していくか、その重要な局面にあると思います。その中で、自動車メーカーの技術革新だけでなく、使い手のユーザーもポジティブに解決に取り組むことが重要だと考えています。また、人と車の関わり方という点で言えば、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)という新しい車の概念において、マイカー自己所有からの転換が進むと言われています。生活の足として、モビリティをどう進化させるのか、新たな取り組みが生まれ、積み重なっていくことを期待しています」

カテゴリー キャンペーン・表彰・記念日,会議所ニュース
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞9月21日掲載