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2022年10月28日

脱炭素へ本格化するトラックの電動化 欧州メーカー先行

大型車メーカーがトラックの電動化に向けて本格的に動き出した。三菱ふそうトラック・バスに続き、日野自動車が6月に小型電気トラック(EVトラック)を発売、いすゞ自動車も2022年度内に市場導入する予定だ。小型トラックではEV化を図る一方、長距離輸送用の大型トラックは燃料電池車(FCV)を軸に据え、EVとFCVの両方でトラックの脱炭素化を目指す。

電動化で先行する欧州メーカーは、すでに大型トラックでもEVを発売し、さらなる航続距離の延長に開発目標を置く。日欧メーカーの電動化戦略の歩みの違いを探った。

トラック・バスの二酸化炭素(CO2)排出量は自動車全体の排出量の約半分を占める。商用車で脱炭素化をいかに実現するのかは、乗用車と並んで、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)への大きな課題となる。

50年のカーボンニュートラル達成を目指す政府の「グリーン成長戦略」では、車両総重量8㌧以下の商用車は30年までにEV、FCVなどの電動車比率を20~30%に、40年までに電動車と合成燃料などを使う車両の合計で100%にする。8㌧超は水素や合成燃料などの技術開発・普及の状況を踏まえ、30年までに40年の電動車の普及目標を設定する方針だ。

日本では三菱ふそうが17年に発売した小型EVトラック「eキャンター」で電動化の先鞭をつけた。小型EVトラックは航続距離が100~200㌔㍍であるため、主に短距離かつルートがほぼ固定の「ラストワンマイル配送」での活用が見込まれている。物流業界のニーズを踏まえ、日野は6月に「デュトロZ(ズィー)EV」を発売し、ヤマト運輸に500台を販売した。いすゞも22年度内に発売する。

大型トラックは長距離輸送の用途が多く、より長い航続距離が求められる。EVでも電池を増やせば航続距離の延長は可能だが、その分、重量が重くなる。「最大積載量が決まっている関係もあり、バランスをみる必要がある」(大型車メーカー役員)と商用車ならではの難しさがある。

三菱ふそうの安藤寛信副社長は、「EVは長距離輸送の場合、使い勝手で難しい面がある」と話す。このため、現時点ではFCVをメインに据えるメーカーが大勢だ。

欧州ではすでに大型のEVトラックが走行し、新型車では航続距離500㌔㍍以上の段階に入る。21年のトラック新車販売に占めるEV比率は0・5%だが、販売台数は着実に増えている。

欧州の大型車メーカーでEVトラックの開発が加速している背景には、物流会社が電動車の導入に積極的なことがある。ボルボ・トラックの調査によると、欧州の大企業の8割がCO2排出量ゼロの運送事業者にコストを多く支払う考えを持ち、8割以上が要件を満たさない場合は委託先の変更を検討すると回答した。

他社連携や官民合同事業が円滑に進んでいることも一因だ。EVトラックの普及に欠かせない充電インフラでは、ダイムラー・トラックとボルボグループ、フォルクスワーゲン(VW)子会社のトレイトンが今年設立した合弁会社が欧州で充電網を構築し、全ての大型車が利用できるようにする。

ドイツでは政府の資金提供を受ける高性能充電プロジェクト「HoLa」(オラ)により、急速充電が可能なメガワット充電システムを備えた充電ポイントが高速道路沿いに設置されている。ダイムラー・トラックやトレイトン傘下のMANのほか研究機関なども参加しており、国を挙げて大型EVトラックの普及に道筋をつける構えだ。

燃料電池トラック(FCトラック)でも同様に車両開発や他社連携が進展し、水素ステーション拡充に向けた官民プロジェクトも立ち上がっている。

日本でもトヨタ自動車などが出資する商用車連合のコマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT)がFCトラックやEVトラックの社会実装を来年に開始する計画で、今後、日本でも電動化の進展が見込まれている。

一方で、水素エンジンや合成燃料など多様な技術の開発も政府主導で進む。カーボンニュートラルで国際競争力を高めるためには、企業や業界の枠を越え、国が強力に支援する推進体制が一層重要になる。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞10月24日掲載