会員向けクルマ
biz

INFORMATIONクルマの情報館

自動車産業インフォメーション

2022年9月07日

タイヤメーカー各社 天然ゴムの安定調達へ産地で支援活動

日本のタイヤメーカーがタイヤの主要原材料の一つである天然ゴムを安定的に調達する取り組みを強化している。天然ゴムの原料となるパラゴムノキの主産地は東南アジア周辺に偏在しており、病害や気候変動などによる調達リスクを抱えている。現地では土地の収奪や森林伐採、収穫での人権侵害などの問題も表面化している。

課題解決に向けてタイヤ各社は調達方針を定めるとともに、現地での教育活動や農家を支援する。天然ゴムの生合成メカニズムや代替植物の研究に取り組む動きも広がっている。

タイヤの原材料の約3割を占める天然ゴムは、その大半がパラゴムノキの樹液から作られる。世界の天然ゴムの需要は、モータリゼーションの広がりもあってこの40年間で約3倍に拡大している。今後も拡大が見込まれる需要に応えるためには、天然ゴムの持続可能な調達が求められる。

パラゴムノキの産地はタイやインドネシア、ベトナムなど、東南アジアに集中しており、病害や災害が地域に発生した場合、調達リスクが急激に高まる。約600万戸と言われる小規模農家が担っているが、経済的に弱く、児童労働や賃金不払いなどの問題も懸念されている。

こうした状況を改善するため、2018年10月にタイヤメーカーを中心に「持続可能な天然ゴムのためのグローバルプラットフォーム」(GPSNR)が設立された。現在はグローバルな自動車メーカー、商社など200以上の企業・団体が加入している。昨年12月に開かれた総会では、法令順守や生態系維持、人権尊重などへの具体的な取り組みを報告するよう加盟各社に求めた。このこともあって関係する各社は取り組みを加速させている。

横浜ゴムは6月、タイの天然ゴム農家に向け、品質や生産性向上を目的としたセミナーを実施するとともに、農家50軒に肥料を無償提供した。現地のゴム農家への訪問調査も実施、天然ゴムの価格下落で肥料を購入できない実情をヒアリングし、対策を検討する。今後もゴム農家への支援のほか、生産者や天然ゴム商社に人権尊重を求めるイベントなどを実施して啓蒙活動を続けていく構え。

ブリヂストンはインドネシアに保有する農園2カ所に、生産性を向上するため、30年までに約32億円を投資することを決めた。パラゴムノキの優良種の導入やAI(人工知能)活用による病害対策などを推進し、35年には同じ面積での収穫量を22年計画比の2倍に増やす計画だ。

ミシュランは地元企業との共同出資会社を通して、パラゴムノキの栽培や多毛作の指導など、農家の生活水準向上に取り組んできた。この共同出資会社を今年、完全子会社化し、今後は腰を据えてより長期的な支援に活動をシフトしていく方針だ。トーヨータイヤは人権や環境に配慮した天然ゴムの調達に向けてトレーサビリティーを強化する方針で、将来すべての天然ゴムの生産者を追跡できる仕組みの構築を目指している。

天然ゴムの品種改良や人工的な生合成を目指す動きも本格化している。住友ゴム工業は東北大学、金沢大学、埼玉大学と共同で、天然ゴムの生合成メカニズムの解明に取り組んでいる。これまでに人工膜(ナノディスク)上での生合成や、トマト由来の酵素に置き換えたバイオポリマーの合成に成功した。

代替植物の研究も進む。ブリヂストンはキク科の低木「グアユール」を原料に活用する研究を進めている。グアユールは北米の砂漠地帯に自生し、寒さに耐えるため、樹皮層にゴム成分を蓄積する。26年の実用化、30年の本格生産に向けてゴム含有率向上などの課題に取り組んでいる。

世界のタイヤ市場は、拡大するとともに、中国や韓国のタイヤメーカーの台頭で販売競争が激化している。日本のタイヤメーカーは、資源である天然ゴムの持続的な安定調達が今後の成長のカギを握るとみており、天然ゴム調達先の支援活動や、代替ゴムの研究開発に注力している。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞8月31日掲載