2022年8月10日
電動化で進むプラットフォーム開発 異業種巻き込みビジネス創出
部品サプライヤーやエレクトロニクス企業、モーターメーカーなどが、電気自動車(EV)向けのプラットフォーム開発に力を入れている。大手部品サプライヤーのロバート・ボッシュやZF、シェフラーのほか、鴻海精密工業(ホンハイ)や日本電産などが独自のプラットフォームを開発する。
既存の自動車メーカーだけでなく新興EV企業の車両開発の効率向上を支援することで、内燃機関の市場縮小に伴って拡大する電動化ビジネスの創出につなげようとしている。
プラットフォームは自動車の性能を左右する根幹技術。これまで内燃機関エンジンとともに自動車メーカーの競争力を生み出してきた。ただ、現在進展する車両電動化はこの構図をひっくり返すほどの大変革であり、自動車メーカーや部品サプライヤーはもとより、異業種を巻き込んで進むEVプラットフォーム開発はまさにその象徴だ。
4日、2030年に向けた日本での事業戦略を説明したゼット・エフ・ジャパン。現在、商用車ビジネスを強化しており、ZFが昨年9月に発表したEV向け駆動ユニットプラットフォーム「モジュラーeドライブキット」も活用する方針。多田直純社長は「車は造らないが、ZFの幅広い技術やシステムを使って顧客ニーズに合ったソリューションを提案する」と強調した。
ボッシュは「ローリングシャシー」を開発している。パワートレインやステアリング、ブレーキなど個々のシステムをユニットとして統合し、標準化したソフトウエアで制御。シャシーとボディーは独ベントラーと協業し、ローリングシャシーのプロトタイプを製作している。
シェフラーが開発するローリングシャシーは、自動運転車向けプラットフォームとして提供する予定。モービルアイと共同開発しており、同社の自動運転システム「モービルアイドライブ」を搭載し、汎用性と拡張性を備えた自律走行可能なプラットフォームを提供するという。
ホンハイや日本電産などの異業種企業もEVプラットフォーム開発に乗り出している。自動車の動力源が内燃機関からモーターに代わることで、ビジネスチャンスを狙う自動車市場への参入障壁が一気に引き下がるためだ。
ホンハイはEVプラットフォーム「MIH」を開発。MIHをベースにしたEVは完成しており、3月には商用バス「モデルT」を台湾の路線バス事業者に納入した。今後、SUV「モデルC」、上級セダン「モデルE」も投入する計画だ。
MIHに参加する日本電産もEVプラットフォームの開発に着手している。eアクスルや電動パワーステアリングシステム、ポンプモジュールなど自社製品を搭載し、新興EV企業などへ売り込む。
日本市場では商用EV領域がターゲットになると見られている。ZFジャパンの多田社長は「日本は小型デリバリートラックなどの電動化が遅れおり、そこにビジネスチャンスがある」と期待を寄せる。日本の商用EV市場は自動車メーカーのラインアップが少なく商機が見込める有望市場だからだ。
コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT)のように企業連合を組むなど日本の自動車メーカーも手をこまねいているわけではないが、すでに市場では外資の勢力が拡大。
汎用性が高くカスタマイズ製に優れ、低コストなEVプラットフォームを使って運送事業者のニーズに沿った車体を素早く造り上げ、提供する体制づくりが進む。SGホールディングスやSBSホールディングスは中国メーカー製EVの採用を決めている。
部品サプライヤーや異業種がEVプラットフォーム開発に注力するのは、EV開発にかかる時間短縮を支援するためだ。来年1月1日にZFグループのCEOに就任するホルガ―・クライン氏はEVプラットフォームについて「コスト的にも効率的にも有効で顧客ニーズに合わせてカスタマイズもできる。生産台数が少ない新興メーカーにとっては重要なソリューションになる」と指摘する。
自動車メーカーが開発した車両を購入する時代から、標準化されたEVプラットフォームをカスタマイズして個別最適の車両を造る時代へ―。EVプラットフォームは自動車メーカーを頂点にしたサプライチェーンの破壊的創造(ディスラプション)につながる可能性を秘めている。
カテゴリー | 白書・意見書・刊行物 |
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対象者 | 自動車業界 |
日刊自動車新聞8月5日掲載