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2022年7月20日

日本交通科学学会 「学術講演会」開催、自動運転技術の効果最大化へ

日本交通科学学会(JCTS、有賀徹会長)は「第58回日本交通科学学会・学術講演会」をオンラインで開催した。今回のテーマは「より高度な自動車の安全性確保のために~自動運転車の正しい理解に基づく安全性の向上~」。

開発・普及の途上にある自動運転技術が、今後の交通事故の撲滅に向けてどのように発展していくべきかを、医療、理工学、自動車メーカー、行政など自動車にかかわるさまざまな分野の研究者、専門家が集うJCTSならではの視点で活発に議論し、提言を発信した。

学術講演会は6月28、29日に開催。特別講演2件とシンポジウム5テーマ24件、特別セッションのパネルディスカッションをライブ配信した。合わせて8テーマ24件の一般演題を今月13日までオンデマンド配信する。

今回の大会長を務めた槇徹雄理事(東京都市大学理工学部教授)は講演会の冒頭、「運転支援技術や自動運転車には各レベルに対応して特定の作動条件が設定されており、ドライバーが各レベルでの運転支援・自動運転技術の使用方法を正しく認識することが極めて重要だ」と述べ、自動運転の実情について理解を広め、その有効活用に向けて医理工の連携を深めていきたいとした。

さらに有賀会長は「国の豊かさを維持しようとするなら高齢者の社会参加も求められる。自動車運転も当然そこに含まれ、高齢者にとって安全な運転がかなうように道路の安全を高め、工学技術による一層の支援・強化があれば、高齢者の就労にとって寄与するところが大である。安全な自動運転は、高齢者の活躍に大いに寄与する」と、自動運転が高齢化社会を迎えた日本の成長に欠かせない技術であるとし、期待を示した。

初日は益子邦洋理事(南多摩病院院長)の特別講演「交通事故傷害において医学から工学に期待すること」でスタートした。

ドクターヘリの国内導入をけん引した益子氏は、2025年度までに年間の交通事故死者数を2千人以下に削減するという政府目標の達成には①都道府県警察本部の交通事故調査委員会などで地域特性を踏まえた交通事故分析の深化②重度外傷診療実績のある救命救急センターと連携してミクロ調査を推進③日本外傷データバンク(JDTB)と交通事故総合分析センター(ITARDA)のコラボレーションでマクロ調査研究を推進④イベントデータレコーダ(EDR)やドライブレコーダーデータを活用して人身傷害を分析すること-以上の4つが鍵を握ると提言した。

シンポジウムでは胸部傷害、脳障害、医工連携をテーマに衝突時の人的被害や衝突安全技術の進化、妊婦の心身変化に伴う事故リスク、事故緊急自動通報システムの傷害予測アルゴリズムなどの最新成果が報告された。

2日目は特別講演で国土交通省安全基準室の猶野喬室長が車両安全対策の最新状況を紹介。大学、専門機関の研究者らは先進運転支援システム(ADAS)の交通事故実態をテーマにシステムによる事故低減効果や高齢ドライバーの実車運転パフォーマンスの調査を講演。事故分析の現状と今後のあり方の提言も行われた。

特別セッションのパネルディスカッションでは「自動運転の技術進化~これまでと今後」をテーマに産学官の専門家が討議。座長は東京大学生産技術研究所の平岡敏洋氏と、帝京大学医学部附属病院の三宅康史氏が担当。パネリストは国交省の猶野氏、東京慈恵会医科大学の渡邉修氏、滋賀医科大学の一杉正仁氏、自衛隊中央病院の西山隆氏、日本自動車工業会の波多野邦道氏が務めた。

自動運転について、医学者からはドライバーの姿勢変化によって身体の異常を検知して安全に車を停車させる技術を期待する声が挙がった。その一方、心身変化のセンシングには医療機器の領域まで車載システム側が踏み込む必要が考えられるため、さらなる医理工連携が必要とした。

現状のモニタリング能力は人間の〝脳〟には及ばないので、自動運転はまだあくまで〝支援技術〟にとどまるという認識が必要との意見もあった。さらに、実際の事故では自転車と車の衝突事故の事例が多く、車両の自転車検知技術の進化も交通事故の減少で効果的ともされた。

槇大会長は2日間のプログラムについて「活発な議論、討議をいただいた。複数の自動車メーカーの方々から交通事故死者ゼロというキーワードが聞かれるなど、25年の事故死者数2千人の目標はなんとか達成できると思う。しかし、改めてわれわれ全員が努力していかなければならないと実感した」と手ごたえを述べるとともに、医理工連携を通じてさらなる交通安全の実現に取り組んでいくとの意欲を語った。

◆日本交通科学学会(JCTS)

医療、工学、自動車メーカー、行政など幅広い分野からトップレベルの専門家・識者が参加。それらの知見を融合して安全な交通社会づくりを支援することをねらい半世紀以上、活動を展開している。

カテゴリー 展示会・講演会
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞7月11日掲載