会員向けクルマ
biz

INFORMATIONクルマの情報館

自動車産業インフォメーション

2022年6月09日

物流事業者、配達用EV採用加速 目的は脱炭素のみならず

物流事業者が電気自動車(EV)を相次いで配達用車両に採用している。その狙いはカーボンニュートラル(温室効果ガス実質排出ゼロ)に向けた取り組みだけではない。EVはガソリン車と比べ、燃料費(電気代)や整備費用などの維持費を節約できる部分が多い。

さらに既存の貨物車と比べ運転が快適で、荷積みや荷下ろしの楽な車体に設計しやすいなど、ドライバーの労働環境改善にもつながるメリットがみられる。物流事業者は、こうした利点を複合的に勘案してEV導入を前向きに捉えている。

国内物流事業者ではヤマト運輸が2019年、日本で初めて小型商用EVの導入を発表。20年に関東圏を中心とした営業所で運用を始めた。これを皮切りに、佐川急便やSBSグループ(鎌田正彦社長、東京都墨田区)などがEV導入計画を続々と公表した。価格面から中国製EVを導入する企業もあり、SBSに関しては協力会社の車両も含め、中期的に1万台規模の中国製EVを導入する。

その一方、最大積載量4㌧以上の電気トラック(EVトラック)は市販がないため、各社の導入は1~2㌧の小型車以下に限られる。依然として、EVには航続距離の課題が残るが、配送距離が短い拠点から導入していくことなどで、弱点を補う考えだ。西濃運輸は当面配送ルートが決まっている製品配送に専属で利用していく。

物流企業がEV導入に関してここまで躍起になるのは、コロナ禍を機に物流企業の担う役割が一段と大きくなったことにある。コロナ禍の影響で世界的に通信販売の〝巣ごもり需要〟が増加する中、国際海運では港湾ワーカーの感染によって荷役が停滞。

これらが複合的な要因となり、コンテナ船の運航に大きな支障が生じたため、自動車をはじめとした産業が生産計画の見直しに迫られた。さらに、世界的潮流となったカーボンニュートラルでは、製品輸送段階で発生する二酸化炭素(CO2)の削減も不可避になった。

サプライチェーンの安定化やCO2排出削減ではデジタルを活用した運行管理システムが有望視されるが、その効果的な活用には、自動車メーカーや部品メーカーなどの荷主が物流企業に輸送を〝お任せ〟するのではなく、パートナーとして綿密な連携を図り、計画的な輸送スキームを構築することが不可欠になる。

逆に輸送業界側から見ると、先手を打ち荷主の要望に応えられる輸送体制を整えることが脱炭素時代のビジネス獲得の優位性につながる。「コロナ禍で物流改善に本腰を入れ始めた企業は少なくない」(自動車部品物流トップ)と、物流の重要性の高まりに手応えを示す声が聞こえる。

物流各社はこのような中長期の流れをにらみ、カーボンニュートラル対応では、まず小型トラック以下の車両のEV化に踏み出した。

EV導入の狙いはそれだけではない。EVの特徴を生かして、車両維持費の削減や新人、女性ドライバーの確保にまでつなげようと模索している。EVはガソリン車に比べて燃料費が安い。ヤマト運輸でEV導入を指揮するグリーンイノベーション開発部の小澤直人モビリティ課長は「1㌔㍍(の走行)で見ても(燃料費と電気代に)大きく差がある」としている。

ガソリン車と比較して燃料費が約半分、整備費が約3分の2になるという。佐川急便の担当者も「維持費を含めた総コストで、現在使用するガソリン車の経費を下回る」との予測だ。また、車両導入時には各自治体の手厚い補助金が活用できる。

さらにEVは、騒音や振動が少ないほか、加減速がスムーズとされる。新人ドライバーにも扱いやすく、ベテランも快適に運転できる仕様と言える。同時に、バッテリーの搭載位置に融通が利くほか、プロペラシャフトがなくなることで、荷台の設計自由度が高まる。それによって、荷物の積み下ろしに便利な低床タイプのトラックや運転席からそのまま荷台に移動できるウォークスルータイプのトラックを設計しやすい。

実際に、ヤマト運輸は日野自動車が開発した低床タイプの小型EVトラック(積載量3・5㌧)をテスト導入した。使用した女性ドライバーからは「体の負担が少なくて使いやすい」と好評という。

トラックドライバーの人手不足は深刻で、経営コンサルティングのボストンコンサルティンググループによると、27年に日本のトラックドライバーは物流需要に対して24万人ほど不足する見込みだ。新人や女性ドライバーが使いやすいEVが普及すれば、ドライバー不足が緩和される余地が広がる。

一方、車両選定や配達時間の違いによって、EV導入の進捗に差異がみられる。佐川急便やヤマト運輸は、商品化の進んだ積載量1~3㌧クラスの小型トラックを中心に導入台数が比較的多い。また、夜間配送を行わない場合は、その時間に定時に普通充電器で充電できるため、導入しやすくなる。

一方、充電時間を減らすには、割高な急速充電器を導入する必要があるが、コストがかさむことに加え、取り扱いの教育に時間がかかるなど「扱いが難しい」(ヤマト運輸)といったデメリットがある。こうしたことを踏まえ、日本通運は、夜間営業のない引っ越し業務向けにEVを導入する考えだ。

現在、物流各社のEV導入比率はまだ低い。しかし、いずれも脱炭素対応以外のメリットと運用コストなどを確認した上で随時、運用台数を拡大する方針を打ち出す。

EV導入以外で脱炭素に貢献しようとする考えもある。特に、貨物列車や船を利用した「モーダルシフト」は、CO2削減に大きな効果を示す。国土交通省によると、同じ距離のトラック輸送と比べ、船が5分の1、貨物列車が13分の1にそれぞれCO2排出量を削減できるという。

さらに、ドライバーの制服を天然素材製にする動きもある。ヤマト運輸は20年9月、生地に植物由来のポリエステルを採用した。同素材は、製糖工程で生じる副産物の「さとうきび廃糖蜜」を原料にしたもの。一般的な化石燃料由来のポリエステル素材と比較して、CO2削減効果が大きいという。

EV導入以外にもCO2の削減オプションを持つことは、カーボンニュートラル達成に苦労する荷主への提案力になる。車両の電動化に加え、鉄道、海運などと連携した複合的なCO2削減手法の企画力が、物流各社の持続的成長を占うことになる。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞6月6日掲載