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2022年5月26日

バッテリー劣化を短時間で診断 電池メーカーや検査会社が相次ぎ参入

電気自動車(EV)の本格的な普及を前に、既販車の駆動用バッテリーの性能を短時間で診断、予測する技術を実用化しようとする動きが活発になっている。数年後の車両価値によって支払い額が変わる残価型ローンやリースなどといった金融商品の利用が新車販売市場で増える中、EVの適正な流通には、車両原価の大きな割合を占めるバッテリーの残存性能を正確に確認できる仕組みが欠かせない。

車載式故障診断装置(OBD)や充電口から収集した限られたデータを使い、いかにして瞬時にバッテリーの状態を把握するのか。バッテリーのメーカーや検査会社、中古車流通関連企業などが相次いでバッテリー診断ビジネスに乗り出そうとしている。

一般的に原価の3分の1を駆動用バッテリーが占めるとも言われるEVの場合、中古車流通市場などで正確に値付けするには、電池の残存性能がどの程度残っているのかを確認できる仕組みが不可欠になる。ただ、バッテリーを完全に放充電すれば残存容量を確認することはできるものの、診断時間が数時間必要となることから、中古車の買い取り査定や中古車オークション(AA)などの流通プロセスに組み込むのは難しいのが実情だ。

こうした中、実際の中古車販売の現場では、メーターパネルに表示されたインジケーターや専用のスキャンツールで残存性能を大まかに確認するのが一般的だ。国内で流通する中古EVの大半を占める日産自動車「リーフ」の場合、メーターパネルに12セグメントで現状のバッテリー性能を表示。バッテリーの充電可能容量が低下すれば1セグメントずつ欠けていく仕組みだ。

中古EVの販売に力を入れている日産東京販売でも、この12セグメントによる評価に基づき、小売りに振り向けるEVを選定。11セグメント以上あれば、一般ユーザーへの小売り用として商品化するルールにしている。

ただ、EVの中古車流通における課題は少なくない。そのひとつがAAなどで売買される場合の評価だ。日産東京の長幡忠執行役員中古車事業部長は「今のところ、AAの取引でセグメントが価格に反映している様子はない」と指摘する。

こうした中、車両から読み取れる限られたデータを活用し、バッテリーの状態を短時間で把握し、分かりやすく評価しようとする試みが広がっている。

福島県いわき市の東洋システム(庄司秀樹社長)は、OBDのポートから読み取れるバッテリーのデータを使い、残存性能を把握する技術を確立した。急速充電した時に発生するバッテリーの電圧、温度、電流をOBDポートに取り付けた専用コネクターから吸い上げ、スマートフォンを通じて同社のクラウドに送信。このデータを独自のアルゴリズムで解析することで残存性能を算出し、新品時と比べた場合の性能をパーセント表示する。

同社はこれまで、バッテリーの性能評価装置の販売や評価受託などで自動車メーカーなどと取引してきた実績があり、中古EV電池の劣化診断では、こうした電池評価事業で培った知見を生かしている。すでにコネクターのセットから診断結果の取得まで5分以内で済ませられるようになっており、時間をかけて詳細に診断した場合と比べた誤差は2、3%程度に収まっているという。

この技術を使ったサービスを「バッテリー残存性能診断システムBLDS(ビルズ)」の名称で売り込む計画で、年内の実用化を目指している。

東芝は、2次電池を開発、生産してきた知見を生かした独自の診断技術の開発を本格化している。バッテリー診断手法のひとつである「インピーダンス法」などを応用し、短時間で電池の残存性能を把握する技術を目指す。急速充電「チャデモ」の充電口から読み取れる限られたバッテリーデータを解析し、残存性能だけでなく、電池内部の状態も短時間で把握できるようになる見込みだ。

今後は中古車事業者向け業務支援システムの開発・販売を手がけるファブリカコミュニケーションズと丸紅プラックス、東芝の3社で実証実験を行い、中古車市場で運用しやすい診断サービスのあり方や劣化診断データを流通するための仕組みづくりを検証する。

中古車流通のプロセスにバッテリー診断を組み込もうとする動きは広がっている。インターネットAAなどを手がけるオークネットは2019年、バッテリー評価の独自技術を持つミライラボ(平塚利男社長、東京都八王子市)に出資。

車両検査に駆動用バッテリーの診断を行うための仕組みづくりを目指す。将来的には、AA出品時に車両の内装、外装を点数化するのと同様に、中古車取引で電池の劣化度合いなどをひと目で確認できる基準も用意する考えだ。

ミライラボには、傘下に日本カーソリューションズやニッポンレンタカーサービスなどを持つ東京センチュリーなども出資するなど、バッテリー性能を可視化する技術への関心は急速に高まっている。

一方、こうしたバッテリーの劣化測定や自動車利用におけるビッグデータなどを活用し、バッテリー性能の劣化を予測しようとする動きも進んでいる。ディー・エヌ・エーは、独自のアルゴリズムによって数年後のバッテリー劣化を予測できる技術を開発した。

さらに同社では、バッテリーの残存性能や車両を使う場所、使い方によって変わる航続可能距離を推定する仕組みも確立している。劣化を高精度で予測できるようになれば、数年後における残価の設定などにも生かせる。

ドライバーや使用環境によって変わる航続可能距離の推定とバッテリー劣化予測などを組み合わせれば、用途に応じたバッテリー性能の車両と使用者をマッチングすることもでき、バッテリーが劣化した車両でも自動車として利用する「寿命」の長期化が期待できそうだ。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞5月23日掲載