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2022年4月22日

福島県相双地域 実証プロジェクト続々展開、官民一体でイノベーション

東日本大震災から11年が経過し、被災地では現在も新たな商業施設などがオープンし、復興の姿が確認される。その一方、太平洋沿岸部に位置する福島県浪江町などの相双地域は、福島第一原子力発電所の事故の影響でいまだに一部が帰宅困難地域に指定されており、復興は道半ばだ。

こうした中、福島県は相双地域の復興支援の一環として、最新テクノロジーによる地域振興計画「福島イノベーションコースト構想」を策定し、多種多用な技術の実証を展開する。自動車業界でも、水素エネルギーの活用やCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)、MaaS(サービスとしてのモビリティ)など「100年に1度の大変革」に向けた実証の最前線となっている。

福島県は、県を挙げて水素エネルギーの利活用に取り組んでおり、浪江町には水素の社会実装に向けた研究機関「水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」がある。FH2Rは、太陽光などの再生可能エネルギーを利用して水素を生成し、環境負荷の低いグリーン水素の利活用を進めている。

10日には浪江町内で「第3回なみえ水素まつり」が開催され、住民に水素利活用の情報を発信した。水素を燃料に走行する燃料電池車(FCV)の「ミライ」を販売するトヨタ自動車や、トヨタカローラいわき(河口利夫社長、福島県いわき市)が車両出展で協力し、イベントを盛り上げた。

トヨタは、FCVのキッチンカーを出展した。車両は、豪州で販売する「ハイエース」をベースに、ミライの動力ユニットを搭載した。車内は専門の架装業者と協力して、冷温水サーバーや業務用冷蔵庫、複数のコンセントなどを備える〝オール電化仕様〟に仕上げた。

キッチンカー以外にも、モニターや通信機器を搭載したビジネス仕様の「グランエース」や、簡易な医療行為に対応する「コースター」などのFCVを試作して需要の調査を進めている。ちなみにキッチンカーは現状で量産化が難しく、価格は架装も含めて車両本体価格の2倍以上になるという。

日産自動車は2021年に浪江町と連携協定を締結し、モビリティやエネルギーマネジメントについて実証を行ってきた。そして今年3月に同町で開催された「浜通り連携協定サミットイン浪江」に参加。住民や事業者に向けて、乗合タクシーのオンデマンド配車や、電気自動車(EV)の充放電システムと人工知能(AI)によるエネルギーマネジメントの成果、課題などを発信した。

乗合タクシーは、町内の主要拠点とデジタル上に120カ所以上の停留所を設定。対象エリア内のどこにいても1分歩くと停留所が利用でき、アプリから配車できる環境を作り上げた。成果報告では、町内外で多くの利用実績を上げた一方で、高齢者がデジタルの利用手続きに抵抗を感じるケースなどが指摘された。

電力をすべて再生可能エネルギーで賄う「RE100」を目指す実証も報告した。道の駅なみえで行うもので、EV「リーフ」とAIを活用した放充電の実用化検証では、道の駅に設置された太陽光パネルなどの発電設備に、公用車として使用するリーフを再生可能ネルギーの〝蓄電池〟として組み合わせ、環境負荷や消費電力を抑制する取り組みを紹介した。

日産は、今後も町の活性化と復興に向けて実証を加速させる考えで、新たな地方都市モデルの構築に向けて協力を呼びかけている。

自動車メーカーが浪江町で行う実証は、復興を後押しすると同時に、地方が抱える少子高齢化や過疎化、交通弱者の増加、カーボンニュートラルなどの課題解決でも有効な施策となる。福島県では、22年6月以降に浪江町に隣接する双葉町で避難指示が解除される見通しで、さらなる取り組みの広がりと社会実装が期待される。

カテゴリー 社会貢献
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞4月15日掲載