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2022年4月01日

日本財団、埼玉工業大など開発 水陸両用バス、世界初の自動運航実証実験

日本財団は、埼玉工業大学(埼工大)などに開発を委託した水陸両用バスの自動運航実証実験を群馬県八ッ場あがつま湖で実施した。水陸両用車による自動運航の実証は世界初。実証実験では陸上と水上の間の入水・出水、水上での障害物の避航を自動化することを試し成功した。

水陸両用自動運転バスは海運事故の減少や物流の生産性向上に向けて実用化が期待されている。同財団は今回の実証データを活用して、2025年の実用化を目指していく。

今回の実証実験は、日本財団が推進する無人運航船プロジェクト「MEGURI(メグリ)2040」の一環。埼工大とともに日本水陸両用車協会、5G(第5世代移動通信規格)ソリューションのエイビット(檜山竹生社長、東京都八王子市)などが参画した。

今回の水上自動航行技術は、陸上での自動運転技術をもとに開発されてきた。開発の指揮は、自動運転バスで実績を持つ埼工大の渡部大志教授が執った。長野原町が保有する水陸両用バス「八ッ場にゃがてん号」にライダーやソナー、カメラなど複数センサーを搭載し、自動運航化を図った。同時に陸上での自動運転技術を船に応用して開発した自律運航ソフトウエアを用意した。

センサーの搭載位置は、自動運転車を見慣れた目から見てかなりユニーク。前方の3つのライダーのうち2つを縦置きにしたことで、それぞれの死角を補完し合うことを可能にした。100㍍前方ならば問題なく船などの障害物をトラッキングできるという。

実験では入水、出水、水上避航の自動化システムを検証した。入水と出水時は、GNSS(全世界測位システム)からの位置情報でタイヤとプロペラの駆動を切り替える。さらに変速機のポジションは、入水時には加速が必要なため「D2」、水上航行中はタイヤが回転しないよう「ニュートラル」、出水時は車両重量がかさむバスで坂を上るために「M2」へと自動で切り替える。スムーズな運転のため、きめ細かく制御プログラムを組み立てた。

その中でも「出水の自動化が一番難しかった」と渡部教授。入水路が広い湖に向かう場合と異なり、出水は出口の道路の幅が限られるため、より高精度な自動運転制御が求められる。

基本的に船は揚力の問題で「浅瀬での低速航行(舵を取ること)が難しい」(渡部教授)。その解決では、陸上での自動運転ソフトウエア開発で培った「モデル予測制御」を活用した。埼工大がプログラミングしたソフトウエアで、7秒先の船の位置や向きを予測し、最適なハンドル操作を行うことで、船の向きの振れをなくし正確な位置で出水できるようにした。

さらに安全性向上のため、入水時と出水時は5G通信を利用し遠隔監視した。バスのカメラ映像を5Gで受信し、車内外を監視できる。基地局にハンドルやペダルなど運転席と同様の設備を準備し、万が一のアクシデントが起きた場合には迅速に遠隔操作できる体制を整えた。

渡部教授は実験の総括として「(難易度の高い)出水に関しても満足のいく結果が出た」とし、水陸両用自動運転バスの実用化に確実な手ごたえを感じたとする。

海運業界では高齢化が進み、内航貨物船の船員の50%以上が50歳以上になった。そのため、日本に400カ所以上ある有人離島の交通維持が課題となっている。また、海上保安庁によると、海運事故の約8割がヒューマン・エラーに起因するもので、自動化によるミスの予防が期待されている分野だ。

日本財団は今後、自動運航システムの運航ルールの整備や船員育成、インフラ整備に取り組み、水陸両用自動運転バスを世界に発信していく考えだ。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞3月28日掲載