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2022年1月27日

普及の動き広がる電動キックボード 自動車関連企業も熱視線

普及に向けた動きが広がっている電動キックボード。電動マイクロモビリティの一種で、海外での利用が先行している。日本では原動機付き自転車とする現行の車両区分に加えて、免許不要やヘルメットの着用を任意とするなど新たな分類を設ける検討が進んでおり、規制緩和による販売やシェアリングの市場の広がりに注目が集まっている。自動車関連企業も新市場に対して、熱視線を送っている。

電動キックボードは、ラストワンマイルや新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、「3密」を避ける移動手段として公共交通機関の補完や代替としての役割に関心が寄せられている。利用者からは「自転車の半分のサイズで保管場所をとらない」や「指の動作で操作できる感覚が新鮮」「電気駆動で環境に優しい」といった声が上がる。

国内でシェアサービスを手がけるLuup(ループ、東京都渋谷区)の岡井大輝社長兼CEOは「世界に登場してまだ5年のモビリティだが、ユーザーの数がどんどん伸び、着実に普及している」と手応えを語る。

海外発の電動キックボードだが、日本企業でも製造・販売に参入する動きが広がっている。小型電動モビリティの開発や販売などを行う事業者が加盟する日本電動モビリティ推進協会(JEMPA)の鳴海禎造代表は「各社がモビリティ参入の通過点として、電動キックボードからスタートしている」と状況を説明する。

今後も排出ガス規制で排気量50ccの原付ラインアップの減少が予想されるなど「新たな移動手段として電動キックボードをはじめとした電動マイクロモビリティに続々と新規参入してくる」と見込む。また、JEMPAには自動車関連メーカーからの問い合わせが複数あり「新規事業の取っ掛かりとして電動マイクロモビリティに関心を寄せている」とみる。

販売やメンテナンスでは電子商取引(EC)サイトに加えて、代理店による実店舗での販売を増やしている。JEMPAに加盟するSWALLOW(川崎市高津区)の金洋国代表は「原付に代わる商品としてバイクショップの割合が高く、自動車整備工場も新たな商材として代理店に参画している」という。

メンテナンスは「車両構造がシンプルな分、自転車専門店でも自動車整備工場でも取り組んでもらいやすい」と幅広いモビリティ販売からの参画にも期待を寄せている。

電動キックボードのシェアリングサービスの普及に向けた動きでは、産業競争力強化法に基づく「新事業特例制度」を使った実証実験が全国各地で認定を受けた販売やシェア事業者などで展開されている。2021年4月~22年7月(予定)を期間とする実証実験では、車両は道路交通法の小型特殊自動車に分類し、最高速度を制御した車両をヘルメットの着用を任意として運転できるなどの措置が取られている。

現行法ではサービス利用のためにユーザーがヘルメットを持ち歩く必要があるなど利用しづらい面もあった。シェアサービスの実証実験では走行時の安全性を検証する狙いもあった。

電動キックボードをめぐる法改正では、警察庁が21年末に「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」の報告書をまとめた。車体の最高速度を時速15~20㌔㍍以下に制御し、年齢制限を設けた上で免許を不要とするなどの内容を盛り込んだ。加えて、販売やシェア事業者に対し購入者や利用者に交通安全教育を行うことを求めていくともしている。

現状では電動キックボードに対するユーザーの認識はあいまいな状況にある。シェア事業者で組織するマイクロモビリティ推進協議会の岡井大輝会長は「ナンバープレートの未装着やヘルメットの未着用など保安基準やルールを満たさない利用が増えている」と話す。SWALLOWの金代表も「海外のECサイトなどで購入された適法ではない『野良キックボード』もある」と危険性を指摘する。

こうした状況を受けて、販売やシェアの各事業者では安全面に対する取り組みに動き出している。マイクロモビリティ協議会の加盟企業は、利用者に対してサービス登録時に道交法に関するテストの実施や利用中の違反行為を繰り返し確認すると回数に応じた警告や利用制限などのペナルティーを設けている。

悪質な場合はアカウントをはく奪する。また、自治体や警察と協力して交通事故防止を図っており、ループでは試乗会の会場で安全講習会や警察が各地で実施する交通安全教室に参加して安全な乗り方に関する説明会を開催している。こうした安全への取り組みの成果などもあり、実証実験では死亡などの重大事故は発生していないという。

販売現場でも「ナンバープレートの取得や自動車損害賠償責任保険への加入などの説明は徹底して行っている」。こう話すのは、電動マイクロモビリティなどの販売やメンテナンスを手がける「原ちゃり電ちゃり」を都内に2店舗展開する53GROUP(東京都文京区)の呉本新衛代表取締役だ。

電動キックボードの交通ルールや装備品などは、購入前の試乗を通じて丁寧な説明を心掛けている。販売店として「説明するのは義務」(呉本代表)と強調する。

警察庁の報告書では、電動キックボードは新たな分類と原付のいずれかに当てはめることが可能になる。JEMPAの鳴海代表も「一律に新分類に移行するのではなく、製造・販売各社がそれぞれ判断するところになる」と話す。規制緩和で利用ができる層が広がり、普及が期待できる一方で、販売やシェア事業者にはいっそうの認知活動が求められそうだ。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞1月24日掲載