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自動車産業インフォメーション

2021年9月16日

自動車メーカー各社、サブスクサービス 認知広がり関心高まる

新車の買い方が多様化し、国内でサブスクリプション(定額利用)型のサービスを訴求する動きが広がっている。自動車メーカーでは、トヨタ自動車が2019年に「キントワン」を開始したのを皮切りに、他のメーカーでもメンテナンスや税金などをまとめた定額のリースプランを用意。テレビコマーシャルなどでの露出も増え、ユーザーの関心も高まってきた。

一方、自動車サブスクの設計に明確な定義がないこともあり、消費者に商品性の理解、浸透が進みにくい側面も見えてきた。市場の活性化に向けて新たな業界ルールづくりも求められ始めている。

自動車メーカーの中で最初にサブスクプランとして売り出されたトヨタのキントワン。立ち上がりは申し込み件数が伸び悩んだ時期もあったが、人気タレントを起用した宣伝が火付け役となり、順調に扱い件数を伸ばしてきた。足元の契約獲得数も「安定的に推移している」(キント広報)状況で、サービス開始から今年6月末までに約2万件の申し込みがあったという。

このほか日産自動車は20年3月に「クリックモビ」をスタートした。立ち上がりは札幌市内を対象に受付を開始し、その後徐々にエリアを拡大。7月1日時点で32都道府県まで広がった。同年の10月には三菱自動車が「ウルトラマイカープラン(UMP)」を発売したほか、ホンダも今年5月に「楽らくまるごとプラン(楽まる)」を投入した。

申し込みは、キントワンがインターネットとトヨタ販売店で受け付けているのに対し、UMPと楽まるは、系列販売店でのみ扱っている。一方、クリックモビはネットからの申し込みに絞り、納車も自宅まで車両を届ける仕組みを採用しているのが特徴だ。

各社のサービスで設計が最も異なるのが任意保険の扱いだ。キントワンは、年齢や運転歴によって保険料に差が出ないフリート契約をすべての契約に組み込むなど、若年層や自動車を保有した事のない人に恩恵が大きい設計になっている。

実際に自動車を保有していない層の申し込みも多く、未保有者と他銘柄ユーザーを合わせた数が申し込み数全体の6割になるという。UMPもキントワンと同様にフリート契約の任意保険が組み込まれた設計だ。

一方、楽まるは任意保険の組み込みを選択できるようにした。月額料金に任意保険料の組み込みを希望する場合は、ノンフリート契約の保険を提供。もともと保険料が割安なベテランドライバーも不利にならないようにした。クリックモビは、任意保険を別で契約する仕組みにしている。

自動車メーカー系以外も自動車販売、リース事業者がサブスク型のプランを投入していることもあり、自動車サブスクの認知度は日増しに高まっている。JDパワージャパン(山本浩二社長、東京都港区)が6月に実施したアンケート調査によると、車のサブスクサービスを知っていたのは20~69歳の2800人のうち、56%に上ったという。

認知度が上がる一方、実際に利用を検討している人の数はまだまだ少ないのが実態だ。同調査で、自動車サブスクサービスの利用を今後検討すると回答した人は4%にとどまるなど、自動車市場で市民権を得たとは言い難い状況だ。

こうした中、自動車サブスク市場のルールづくりに乗り出す動きも出てきた。自動車公正取引協議会(神子柴寿昭会長)は今年6月、広告表示などに「サブスク」を使用する場合のガイドラインを提示。契約期間中の支払総額や賃貸契約である事の明示を求めた。現在、国の認定を受ける「自動車公正競争規約」に盛り込む方向で準備を進めている。

さらに「サブスク」の定義をめぐっては、さまざまな解釈が乱立している状況だ。昨年5月にキントワンが契約途中でも一定の手数料を払えば違う車に乗り換えられる「のりかえGO」を開始したものの、多くのサービスは一般的なリースとの明確な違いがないのが実情だ。

今後、安全技術の高度化や電動化によって車両価格が上昇すれば、こうした月定額サービスに力を入れるケースが増加する可能性は低くない。サブスクや個人向けリースなどさまざまな言葉が使われる中、市場の拡大に向けて消費者の誤認を招かない仕組み作りが欠かせなくなっている。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞9月11日掲載