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2021年8月18日

日刊自連載「ズームアップ」(1)新車市場

新車販売の現場が難しいかじ取りを迫られている。半導体不足などの影響で人気車を中心に長納期化が進み、足元の登録につながりにくい状況が続いているためだ。メーカー各社は、下期での生産挽回に向けて準備を進めているものの、先行きの不透明感は拭いきれない。

「販売できるクルマをしっかりと売る力が必要」(トヨタ系ディーラー社長)で、顧客ニーズと新車の供給状況を両にらみした営業戦略が一層欠かせなくなっている。

「納期が長すぎてキャンセルになるケースも出始めている」。こう話すのは、あるスズキアリーナ店の経営者だ。スズキでは半導体不足に伴って国内工場を一時的に稼働停止するなど生産調整を行っている。もともと納車が約1年待ちだった「ジムニー」に加え、「クロスビー」など登録車の中で販売ボリュームが大きい車種も通常より大幅に納期が伸びている。

こうした事態はスズキに限ったことではない。乗用車メーカー各社で生産に影響が出ており、全ての受注に対応しきれていない。大型車メーカーも少なからず影響があり、日野自動車は新型コロナウイルスの感染再拡大で東南アジア地域からの部品供給が滞り、8月に入って古河工場(茨城県古河市)の稼働を一時的に停止した。

7月の登録車と軽自動車を合わせた新車販売台数は、10カ月ぶりのマイナスに転じた。前年同月比4・8%減の37万7448台で、コロナ禍で落ち込んでいた前年実績をも下回った。今年の7月実績の水準は、同月として直近10年の中で最も少ない台数だった。

コロナ禍前の19年7月実績と比べても17・8%減で本格回復には程遠い。多くのディーラーで受注が前年同月を超えるなどコロナ禍前の水準とそん色ない状況が続いているものの、半導体不足などに伴うメーカーの生産調整などで登録台数は伸び悩んでいる。

ディーラー各社の21年度業績見通しは、今後の新車の供給しだいで大きく左右されそうだ。メーカー各社は年度内の生産挽回に向けて半導体が必要な部品の調達に注力しているが、未だ先行きは不透明だ。

「東日本大震災や昨年の緊急事態宣言時など、これまでの危機対応で蓄積した経験を生かし、影響を最小限にとどめたい」(関東地区のトヨタ系ディーラー社長)とのように、企業ごとの危機対応力も試されることになる。

電動車への関心も高まっている。ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)を合わせた21年上期(1~6月)の電動車販売台数は、前年同期比19・0%増の77万7082台だった。

全体の新車販売台数に占める割合は前年同期と比べて2・2㌽増の38・0%に伸びた。EVやPHVを購入する際に活用できる国の購入補助金が大幅に増額されるなど拡販への追い風もあって、登録車の電動車販売比率は41・2%に上昇した。

政府が50年のカーボンニュートラルを宣言したことに伴い、電動化の勢いに活気づいてきたのが商用EVだ。特に宅配のラストワンマイルを担う運送事業者などでは、軽自動車などをEV化しようとする動きが増えている。

こうした中、小型電気トラックのファブレスであるHWエレクトロ(蕭偉城社長、東京都江東区)が軽規格の商用EVを年内に開発して市場投入する計画を発表するなど、新たなプレーヤーがEV市場に参入している。

EVベンチャーのASF(飯塚裕恭社長、東京都港区)も配送大手の佐川急便と軽貨物EVを共同開発。来年にも佐川への納車を始めるとともに、将来的には個人事業主などへの一般販売にも乗り出す。大手自動車メーカーによる本格的な商品投入に先んじて、EV需要の取り込みを虎視眈々と狙っている。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞8月10日掲載